ひとつ違い - Living, Loving, Thinking, Again

承前*1

広坂朋信*2「「聖子ちゃん、さぞやがっくりしてるのだろうな」」https://t-hirosaka.hatenablog.com/entry/2022/01/22/123916

神田沙也加さんの突然の死を巡って。

あのニュースを知って最初に思ったのは「聖子ちゃん、さぞやがっくりしてるのだろうな」というものだった。
文字通り、そのように言葉にして妻に話した。妻は「当然でしょ」と応えた。
その時、私は「聖子ちゃん」＝（歌手の）松田聖子氏に心から同情していた。
そのことにも驚いた。
私は松田聖子の熱心なファンではない。もちろん、ほぼ同世代の有名人気歌手のことだから数あるヒット曲のいくつかは聞き覚えがあるがレコードやＣＤを買ったりしたことはない。
それなのに「聖子ちゃん」という愛称が自然と口をついて出てきた。
その愛称に込められた親しみは中学か高校の同窓生に対するものとほとんど同じだった（もちろん松田聖子氏とは一面識もない）。
そして、私ども夫婦に子どもはいないのに愛娘を失った彼女の悲嘆を思いやった。
今思い返すと非常に不思議な感じがする。
年齢が近いというだけで彼我の境遇はかけ離れている。それなのに、もし家が近所なら行ってお悔やみの言葉の一つもかけてあげたいような気にさせられたのだ。
「聖子ちゃん、残念だったね。元気出して」と。

そういえば、松田聖子は1962年３月生まれで、私よりもちょうど１歳若いのだった。
そういえば、以前、「アイドル」と同時代性について考えたことがあった。

（前略）現在の「アイドルヲタ」がどう考えているのかは分からないが、自分と世代的に近いアーティストのファンになるというのは、同じ時代を生きているという感覚、getting older togetherということを見出すことが含まれるのだろうと思っていた。例えば、今年50歳になったケイト・ブッシュは私にとってそういう存在でありえている。というか、自分と一緒に年齢を重ねる（成長する）特定の誰かが存在することによって、〈今〉が自分の身近な空間を越えた空間的な厚みをもって存在する、私がそのような〈今〉を生きているということが確認できる。多分、20代とかのケイト・ファンは違う感覚を持っているのだろうし、また中高年の女性が〈ヨン様〉にはまるという場合、getting older togetherという感覚はどうなのかと思う。
https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20080923/1222113089

http://d.hatena.ne.jp/skicco/20110910/p1

「アイドル」「冬の時代」なんてあったんだね。それから、「時流におもねって息を吐く用にでまかせを言ったり吐いたりするような、アイドル評論家もどき」とか「愚昧なコバンザメ評論家ども」っていったい誰のことなの？　謎。
さて、「アイドル」とはどういう人（たち）かという問題がある。この人にとっては「アイドル」＝「ガールズエンタテインメント」であるらしい。ただ「ガールズ」もやがてはレディーズになり、グランマになってゆくのだが。
この人が何歳なのかはわからない。ただ15年前をたんなる知識ではなく経験として知っているとしたら、それなりの歳だとはいえるだろう。何故こんなことを言うのかといえば、「アイドル」の場合、「アイドル」の年齢とファンの年齢の関係は決定的に重要だと思うからだ。つまり、俺のように既に半世紀生きてしまった男は「ガールズエンタテインメント」を10代や20代の連中と同じようには語れないのではないか。俺のような年齢の男にとって、「アイドル」とgetting older togetherするというのは不可能なのだ。だから、世間で謂うところの「アイドル」は一人称所有格のついた「アイドル」ではありえないということになる。
https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20110924/1316792857

同世代の人の死というのは、有名か無名かを問わず、或いは自分との親疎を問わず、また宗教的信仰や政治イデオロギーなどの遠近を問わず、〈他人の死〉一般に還元しえないショックがある。村上春樹は川上未映子との対談、『みみずくは黄昏に飛び立つ』の中で、

（前略）やっぱり同じ世代の人の死というのはまったく違う。これまで僕が経験してきた、年老いて老人になって死んでいく、言うなればクロノロジカルな死とは、まったく違う種類のものですよね。とくに年若い人の場合には、非常に観念的な色合いが濃いというか、多くの場合、それはあとに生々しい傷を残していきます。生木が無理に引き裂かれたような。（p.388）

と述べている。村上氏の発言を引用しながら、

私が「同じ世代の人の死」というのを強く意識し始めたのは、柔道家の斎藤仁や俳優の今井雅之の訃報を知った頃からだろうか。そういえば、私よりも数か月年長の勝谷誠彦*3の死を拙blogでは取り上げていないのだった。「同じ世代の人の死」ということで、ショックはかなり強かった。勝谷の死の前後、けっこう長期に亙ってblogの更新を停止しているのだけど、多分勝谷の死のショックということもその理由のひとつにはあったと思う。

と書いていたのだった*3。多分、松田聖子本人に何かがあった場合、今以上にショックは大きいと思う。或いは、その頃には、年を取って、あまりに多くの「同じ世代の人の死」を見聞きして、つまりそのような「死」に慣れてしまって、感覚が鈍化してしまっているだろうか？

みみずくは黄昏に飛びたつ: 川上未映子訊く/村上春樹語る (新潮文庫)

作者:未映子, 川上,春樹, 村上
新潮社

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*1:https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2021/12/20/132134

*3:https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2020/07/16/104924