「新自由主義」と「独裁者」(メモ)

「経済ジェノサイド」http://d.hatena.ne.jp/t-hirosaka/20130207/1360219072


ここで広坂さんが採り上げている中山智香子さんの『経済ジェノサイド』はまだぱらぱらと捲っただけなのだった。
さて広坂さん曰く、


新自由主義は「国家主導型を破壊してなかば強制的に『自由な市場』を課すという手法」(中山)を取るため、強権的な政府を必要とする。この要請は、たるんだ社会にショック療法をという新自由主義者の主張から必然的に導かれる。政府は自己正当化する存在だから、新自由主義的政策を採用した場合は自ずと国家主義的傾向をつよめる。これも理の当然である(ただしこの場合の国家とは国民国家ではないけれども)。

ところが新自由主義者規制緩和、自由化などのタームを多用し、福祉国家=大きな政府=社会主義=全体主義という冷戦時代に西側で成立した連想のレトリックを用いるため、新自由主義的政治が小さな政府による全体主義だということが気づかれにくい。それどころか、そのレトリックは既得権益の打破という開放的なイメージをふりまくため、本来は新自由主義によって生活を破壊される側の階層までもが、自分たちも富の所有者階層の仲間入りができるような(少なくともそのチャンスが与えられるような)錯覚を覚えて政府の強権化を歓迎する。しかし、実際には既得権益は、既得権益を打破すると叫んでいる側に握られていて一般市民にはわからないように隠されているのだから、陰謀論がはびこる。

これを読んでちょっと思い出したのは、池田信夫*1が一時期、独裁者(「啓蒙専制君主」)としての橋下徹を賛美する言説を発信し続けていたことだ。少しメモ。

どんな時代でも、政治を実質的に動かしているのは全人口の1割以内のエリートである。フランス革命でもアメリカ独立革命でも、武器をもって立ち上がったのは一般大衆ではなく中産階級だった。彼らは政治の結果として税を負担し、ときには国家のために戦争で命を犠牲にするからだ。

しかし選挙のときだけ投票する民衆は結果に責任を負わないので、増税を拒否してバラマキ福祉を求める。こういう「民の声」が大きくなると、それに迎合する僭主が人気を得て実権をもつようになる。だから塩野氏*2が指摘するように、民衆の発言権が大きくなると政治は劣化するのだ。

これは個人株主が多数を占める公開企業と同じで、ジェンセン*3も指摘したように、個人は他人の意思決定にただ乗りすることが合理的になる。個人株主が経営をモニターしても、経営を変えることはできないからだ。こういうときは外部のファンドがLBOで個人株主から株式を買い戻し、経営者を一元的にモニターすることが望ましい。

日本の政治も「国民主権」などというフィクションを捨て、このような啓蒙専制君主が統治するしくみに変えたほうがいい。そのためには企業と同じようにexitできることが必要なので、都市国家が未来の国家モデルだろう。その至近距離にいるのは橋下徹氏である。彼も今回の選挙で主権国家への幻想は覚めただろうから、大阪から日本を変えてほしい。
http://ikedanobuo.livedoor.biz/archives/51831827.html


橋下徹氏がみんなの党との公認調整を「最後はじゃんけんで決めていい」と発言したことに、与野党の非難が集中しているが、これは維新の会のコンセプトからいうと自然な発想だ。ニューズウィークにも書いたように、橋下氏を「君主」とする維新の会の意思決定システムでは、彼以外の議員は彼の命令に従う将棋の駒にすぎないからだ。

大阪で彼が人気を博した理由は「選挙で選ばれたんだから命令する権限がある」という権限論で、既得権を守る労働組合の抵抗を踏みつぶしたことだった。平松前市長のように、すべて話し合いで決めたら何もできない。そして日本では、それが「いい上司」なのだ。
http://ikedanobuo.livedoor.biz/archives/51826529.html


きのうの日経新聞*4に、おもしろい記事が出ている。種類株を使って一般株主の権利を制限するグーグルや、創業者が独裁的に経営したアップルの経営は、株主に不評だが業績は好調で、株主民主主義として評価の高いヤフーやソニーが苦戦しているという話だ。これは当然だ。資本主義は、もともと独裁的システムだからである。

現代の企業理論では、資本家の独裁がもっとも効率的なガバナンスだと結論している。これは現実の企業をみれば明らかだろう。社長を選挙で決める株式会社はない。労働者自主管理や「日本的経営」はそれに近いが、いずれもうまく行かない。それはすべてを決定してリターンを取る資本家がいないため意思決定が複雑になり、資本蓄積のインセンティブが低いからだ。
http://ikedanobuo.livedoor.biz/archives/51784457.html *5


都市国家が合併してできた主権国家は、高コストで非効率になった。先進国の国民負担率は50%を超え、公的部門が経済の重荷になりつつある。他方、都市国家や小国が高い効率を上げている。世界の一人当たりGDPの上位はルクセンブルクカタールなどの小国ばかりで、アジアでも香港やシンガポールは日本とほぼ同じだ。こうした国(地域)の共通点は、民主的な政府がないことだ。

日本でも、ユニクロソフトバンクなど、独裁的な企業ほど高い業績を上げているのは偶然ではない。日本の企業は労働者のexitオプションを奪って組織に囲い込み、民主的に経営してきたが、そのコンセンサスの強さが足枷になってグローバル競争から脱落し始めている。水平分業が進む世界でもっとも重要なのは意思決定のスピードであり、大組織を民主的に運営する企業モデルはもう古いのだ。

橋下徹市長を大阪市民が歓迎しているのも、何も決まらない行政にうんざりしたからだろう。地方議会なんて無駄の最たるものだ。民主制の時代は終わった。21世紀は独裁的な企業と都市のグローバル競争の時代になるだろう。(ibid.)

彼の「独裁」礼賛が成立するのは、経済(企業)と政治(政府)を目的論的或いは機能論的に同一視する限りであるとということは取り敢えず述べてはおきたい*6
ところで、「新自由主義」と「ナショナリズム」の関係に関しては、渡辺治の論を援用しての些か土台還元主義的な説明(愛敬浩二『改憲問題』)にも十分には納得はできないという感じではある。
改憲問題 (ちくま新書)

改憲問題 (ちくま新書)

*1:See also http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070128/1169989586 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090108/1231386781 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090223/1235362566 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090619/1245441165 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20091126/1259201785 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20091217/1261049929 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20091218/1261105482 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20100612/1276361557 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20100621/1277100760 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20101120/1290272803 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20101230/1293715439 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110212/1297527735 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110214/1297700026 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110331/1301545326 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110525/1306294866 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110619/1308481084 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110626/1309107227 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110717/1310898599 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20120505/1336185843 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20120528/1338230225 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20120530/1338343629

*2:塩野七生

*3:http://ikedanobuo.livedoor.biz/archives/51498199.html

*4:http://www.nikkei.com/markets/column/ws.aspx?g=DGXNMSGN1401J_14042012000000

*5:このエントリーのタイトルはずばり「民主制から独裁へ」である。

*6:See also http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20100416/1271390292 これは広坂さんのhttp://d.hatena.ne.jp/t-hirosaka/20100412/1271074489にインスパイアされたもの。