仕方がないこと - Living, Loving, Thinking, Again

「宮台真司が語る、「汚染水」問題と『君たちはどう生きるか』」https://www.joqr.co.jp/qr/article/99956/

宮台真司氏*1、宮崎駿の『君たちはどう生きるか』*2を語る。『大竹まことゴールデンラジオ』（文化放送）。

宮台「まずね、僕はすごくおもしろかった。僕の知る限り、小学生の子たちは非常におもしろがっている。ところが大人たちの多くは、映画館を出てきたときの会話を聴いても浮かない顔で『よくわかんなかったね』と言っている」
大竹「はい」
宮台「観た瞬間にわかるのは『不思議の国のアリス』*3と同じモチーフということです。穴に落ちて下の世界に行くと、いろんなデタラメを体験しますと。そのあと穴の外に出てくるけど、穴は本当にありました。穴の中で体験したことはただの夢ではなく、現実だったのです……という終わり方。今回の宮﨑作品と同じなんですね」
大竹「うん」
宮台「『アリス』でチェシャ猫、トランプの兵隊、いろいろ出てくるけど、『これは何かのメタファーだ』なんて当てはめます？そんな人、見たことない。ところが動画解説といって、青サギはこれを意味する、ペリカンはこれを、おばあちゃんたちはこれを……と、いわゆる『当てはめ』をしている（人がいる）」
大竹「はい」
宮台「でもそういうふうに観ていたら、子供たちが『すごくおもしろかった！よくわからないけど』っていう、デタラメがおもしろいんだ、っていう本質を見逃すことになってしまうんですね」

不思議の国のアリス (角川文庫クラシックス)

作者:ルイス・キャロル
角川書店

Amazon

ALICE IN WONDERLAND

HarperCollins

Amazon

まあわかるのだけど、「大人」が「当てはめ」をやりたがるのは仕方がないといえるだろう。何しろ、人間というのは〈意味を求める人間〉なのだから。また、私たちは作品に触発されて、他の（過去の）作品を想起・召喚してしまう。まさに宮台氏が『不思議の国のアリス』を想起したように。召喚された他の作品がその作品に新たな意味を賦与したり剝奪したりする。これも作品鑑賞の一側面だろう。
さて、『君たちはどう生きるか』の「動画解説」というのは観たことがないのだけど、そういうのがつまらないのは、多分〈構造主義〉的な地平というのを踏まえていないからだろう。まあ、ソシュールもヤコブソンもレヴィ＝ストロースも無視して「メタファー」云々を語ることが見当違いだということだ。流通している『君たちはどう生きるか』の「動画解説」がそうなのかは知らないけれど。
ところで、宮崎駿における〈死の世界〉を往く話としては、『千と千尋の神隠し』があったことを思い出した。ここで、『君たちはどう生きるか』と同様に〈死の世界〉は水と関連づけられている。但し、〈死の世界〉を移動する乗り物に注目してみれは、船ではなく電車である。