インターネット/黒船/天皇(桝山寛)

桝山寛、宮台真司*1「デジタル世代はどこにいくのか」(in アクロス編集室編『デジタル・ジェネレーション パソコン新世代・文化の誕生』パルコ出版、1996、pp.156-177)から、桝山寛氏の発言;


私が日本のインターネット状況を考えるときに、ある意味で一番気になっているのは天皇制との関係なんです。インターネットが情報化時代の黒船であるというメタファーがありますね。そのメタファー自体はわかりやすいからまぁいいとして、一方、明治維新のときに、黒船に対して日本という共同体を安定させるために用いたシステムが天皇制だったわけで、今度のそれは何になるのだろうという視点ですね。インターネットが新しい黒船だとすれば、果たして開国するのか攘夷なのか、あるいは第三の道があるのか。小沢一郎的なやり方、三島由紀夫的なやり方、いろいろあるわけですが、唯一はっきりしているのは、これまでの日本の状況とは違って正解が見えにくいことでしょう。私にもわからないし、おそらく宮台さんにも。決まった形を取らない「アモルフ」ということでしょうか。そういう意味での転換点だという感じは強くします。(p.174)
また、宮台の、

(前略)たとえばパソコン通信でも伝言ダイヤルでも、ケンカのおもしろさっていうのは、まあ僕自身もケンカに参加したことがあるからよくわかるんだけど、やっぱり「巻き込む」ってことだと思うんですよ。一介の名もない人間が、たとえ誹謗中傷によってであれ、いろんな人間を巻き込めるし、そうすることで多くの人間の視線を集めて、そのパーソナル・ネットワークの中である種の中心性を帯びることができる。巻き込むことの快感っていうことが、たぶんこれからどんどん気が付かれていくんじゃないかな。
たとえば、すごく言いたいことがあってデジタルメディアに参加してくる奴と、言いたいことはないんだけれど他人を巻き込みたくて口からデマカセを言う奴とが、同じ舞台で競争して、結局「口からデマカセ野郎」が勝っちゃうことってあるじゃないですか。つまりパーソナル・コミュニケーションのネットワークが電子化されて、誰でも享受可能な形で開かれることの可能性っていうのは、そういう意味で、厳しい競争が生まれることだと思うんです。言いたいことのある奴が、言いたいことのない奴に負けたり、論理的な奴が、単に煽るのがうまいだけの奴に負けたりする。これまであまり疑われてこなかった修辞法の序列関係や、言葉の有効な使用法にかかわる通念なんていうのも、現実に崩れつつある。こういったデジタル世代の「相対主義的な弱肉強食社会」は、いろんな資質を持った奴らにも、自分の資質なりのいろんな勝ち方があるぜ、っていうことがわかってくるという意味で、僕はすごくいいんじゃないかと思いますよ。それこそ「解放」なんだって。(p.170)

*1:See also http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20050902 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20060121/1137869912 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20060124/1138069211 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20060502/1146551271 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20061002/1159772282 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20061128/1164677475 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070202/1170441629 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070307/1173235468 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070430/1177912932 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070522/1179863073 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070704/1183564169 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070819/1187533864 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070826/1188138525 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20071027/1193510497 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20071031/1193848667 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080405/1207424173 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080909/1220972402 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090210/1234250786 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090323/1237832981 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20101004/1286217034 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20101213/1292264882 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110630/1309460207 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110715/1310699482 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110822/1314038999 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110901/1314899481 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20120318/1331998796 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20120512/1336794786 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20121019/1350608158 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20130408/1365352666 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20130725/1374722806 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20131009/1381333783