鈴木英生*1「ウェーバーと防疫対策 金沢大教授 仲正昌樹氏」『毎日新聞』2020年6月9日
仲正昌樹氏*2へのインタヴュー記事。
マックス・ウェーバーは1921年6月14日に所謂西班牙風邪*3を拗らせて息を引き取った。
――ウェーバーの時代と今をどう比べられるのでしょう?
彼が育った時代のドイツで、現在の医学や福祉国家の源流が生まれた点に注目したい。19世紀半ば以降、細菌学が進歩して、「国民の衛生状態が悪いと国力が低下する」という意識が芽生えた。宰相ビスマルクが社会保障制度を整えて、ある種の福祉国家化が始まる。労働者を単に搾取して使い倒すのではなく、身体や健康をご理的に管理して働かせる方向へかじを切った。福祉国家は、人々の合理性、つまり個々人が自らの生の目的や価値に照らして適切な行動を取ろうとする思考や故魚津を、さまざまな専門家らも含む広義の官僚に任せてゆく側面を持つ。ウェーバーは、官僚制が強くなると政治家の役割は小さくなるとも分析した。理想的なのは、批判的に完了をコントロールできる政治家がいる民主的な政治だ。現実には、単に官僚的な姿勢に対抗する政治家の「決断」自体に価値があるとなりがちである。
――ウェーバーにとっては、どんな社会が理想だったのでしょう?
主著「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」*4で分析した初期プロテスタントのように、自らのめざすべき価値を理解している人たちが、合理的に社会をつくるのが理想だと考えた。社会が高度化して官僚が強くなるのは仕方ないが、官僚支配が強まると、こうした社会全体の合理性が枯渇すると考えた。たとえば、疫学研究者にとって、感染症に対する医療資源の集中投下が合理的だ。ただ、限られた医療資源をすべて投下して、他の病気に対して手薄になるのは合理的といえない。今回、先進各国で、こうした専門家にとっての合理性が議論抜きで国家的前提にされたのではないか。
ウェーバーが望んだであろう本当に自由主義的な政治指導者ならば、「今は、新型コロナによる死者を減らすためにこのような規制を選択したいと私は想う。皆さんもこの判断を共有してほしい」と「要請」すべきだった。防疫に協力するかどうかは個人の判断に委ねる。それが自由主義だ。
- 作者:マックス ヴェーバー
- 発売日: 1989/01/17
- メディア: 文庫
*1:See also https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20060313/1142223339 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20081120/1227144257 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20081207/1228577503 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20090826/1251225298 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20101007/1286457491 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20131121/1385043925 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20180707/1530982160 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20180727/1532647942 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2020/03/02/024745 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2020/04/30/151627
*2:See also https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20050801 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20060311/1142049942 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20060504/1146764157 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20080104/1199468688 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20090621/1245586039 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20091106/1257482211 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20180214/1518610134 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20180217/1518876627 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20180223/1519402186 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20180301/1519868965
*3:See also https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20091013/1255431770 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20141015/1413348675 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2020/03/07/092121 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2020/03/08/102039 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2020/04/09/094947
*4:Mentioned in http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20060314/1142342078 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20061009/1160366520 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070710/1184061034 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080901/1220283004 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20100219/1266520878 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20171020/1508471300