太郎問題

FNNの報道;


河野大臣 ツイッターのブロック「問題ない」 ネット上の批判の声に対し
9/7(火) 12:16配信


FNNプライムオンライン

自民党の総裁選挙への立候補の意向を固めている河野規制改革担当相*1は7日、自身のツイッターに批判的なフォロワーを次々とブロックしていることについて、「問題はないと思う」と述べた。

235万人という圧倒的なフォロワー数を誇る河野氏が、自身のツイッターの発信内容に批判的なフォロワーをブロックしていることを巡り、ツイッター上では、「国民の声をブロックする人が国民の代表になれるのか」といった疑問の声が出ている。
これに対し、河野氏は9月7日の記者会見で、「実際に、道などで通りすがりに見知らぬ人を罵倒することはやらないんだろうと思うが、SNS上では、そういうことがかなり頻繁に起きている」と指摘した。
そして、「例えばツイッターは、そういったことがあった場合にブロックする機能があるので、そういう機能を使うことに問題はないという風に思っている」と述べ、ブロックすることは問題はないとの認識を示した。
さらに、「ブロックされても、ツイートを見ることは普通にできる。(ツイートを)見たければご覧になればいい」と述べた他、「ツイッター上の会話を普通のリアルのように一定の礼節をもってやっていただければいいのではないか」と強調した。
https://news.yahoo.co.jp/articles/8f99931669029181bbe493b227deedda85232b7f

加藤郁美さん曰く、
今年2月の『BuzzFeed』の記事;


籏智広太*2「「自分のファンばかりに囲まれて…」河野太郎氏のTwitterは本当に「暇つぶし」なのか?」https://www.buzzfeed.com/jp/kotahatachi/konotaromp
籏智広太「河野太郎氏は、トランプ氏に似ている。ある哲学者の警鐘」https://www.buzzfeed.com/jp/kotahatachi/konotaromp-2


何れも、津田正太郎氏*3へのインタヴュー記事というかたちで、河野太郎問題が論じられている。
後者の記事のタイトルにある「哲学者」とはハンナ・アレントのこと。
ちょっと抜書きしてみる。
先ずは冒頭;


自らの意見と合わないフォロワーへのブロックを連発し、さらにメディアを「フェイク」「デタラメ」と批判する河野太郎行政改革相(自民、衆院神奈川15区)。

新型コロナウイルス感染拡大の切り札であるワクチンを担当することにもなったが、そのコミュニケーションは「トランプ氏的」であると識者は指摘する。

参照されているアレントのテクストは「真理と政治(Truth and Politics)」*4(in 『過去と未来の間(Between Past and Present)』)。

「フェイク」などの言葉を政治家が用い、批判者やメディアを攻撃することは、河野氏やトランプ氏だけに限らず、決して珍しいことではない。津田教授は「そもそも真実と政治は、相性の悪いものでもあるのです」という。

「哲学者ハンナ・アーレントの『真理と政治』という文章があります。真理が専制的性格を持つというわけで、政治と真理は非常に相性が悪いという論考です」

アーレントは著書『過去と未来の間』(みすず書房、引田隆也・齋藤純一訳、1994年)のコラム*5にこう記している。


政治の観点から見ると、真理は専制的性格をもつ。それゆえに真理は暴君に憎まれるのである。暴君は正しくも、自分が独占できない強制力が競合してくるのを恐れる。

事実の場合には歓迎できないからといっても、そもそも事実は人の憤慨などものともしない堅固さをもつ以上、あからさまな嘘以外に事実を変更する手だてはない。

厄介なことに(…)事実の真理は承認されることを専断的に要求し討論を排除するが、政治的生活の本質そのものを構成するのは討論なのである。真理を扱う思考とコミュニケーションの様式は、政治のパースペクティヴから見るならば必然的に威圧的である。

アーレントのいう通り、政治は話し合って様々な意見の妥協点を模索しあっていくもの。『ファクト』か『フェイク』の二元論に陥ると、着地点がどこにも見つけられないことになってしまう危険性を孕んでいます」

「政治には既成事実をそのまま受け入れるのではなく、よりよい方向に変えていくことが求められています。他方においてそこには、事実を都合よくねじ曲げてしまう危険もある。政治家はその間にある狭い小道を、歩んでいかないといけないとの指摘なのです」

「にもかかわらず、河野さんのような有力な政治家が率先して後者のような危険性を選んで分断を生み出していくのが、良いことなのか。本来であれば大切な政治における話し合いや調整を、河野さんは信用していないのかもしれませんが……」


アーレントは前出のコラムで、権力による「事実」の扱いについて警鐘を鳴らしている。なかでも「イメージづくり」においては、事実がイメージと反する場合に否定されうる、とも述べているのだ。

歴史の書き換え、イメージづくり、および実際の統治政策において明白となった、事実や意見の大衆操作という比較的最近の現象に注意を向けなければならない。

イメージづくりの場合、いかなる周知の既成事実であろうと、それがイメージを傷つけるおそれがあるときにはやはり否定されるか、無視される。イメージは旧来の肖像画とは異なり、リアリティに媚びるのではなく、リアリティの完全な代用品を提供すると考えられているからである。

政治主導、そしてスピード感、既得権益打破をアピールする一方、自らの思惑と異なるものを否定し、「イメージづくり」に奔走しているようにも見える河野氏に対し、津田教授はこう釘を刺す。

「コロナのような事態は、この国で暮らす全ての人に影響が及びます。一部の人の支持さえ得られればいいという問題ではありませんから、ポピュリズムとは相性が悪く、可能な限り幅広い合意を得ることが求められているわけです。だから、トランプ大統領は太刀打ちできなかった」

「特にワクチンのように争点が顕在化しやすい領域では、たとえば副反応を過度に警戒する人たちを敵視し、ブロックし、『デタラメ』とやっつけるのではなく、きちんと説得して納得してもらうというプロセスが必要です。河野さんも、やはり丁寧なコミュニケーションを優先すべきではないのでしょうか。それは、メディアとの関係においても同様でしょう」

最後に、いまの政治状況を予言していたかのようなアーレントの言葉を、再び紹介する。


権力を掌握する者がたとえいかなる工夫をこらそうとも、真理の代替物となりうるものを発見したり考案したりすることはできない。なるほど、説得や暴力は真理を破壊しうるが、真理に取って代わることはできない。
因みに、ドナルド・トランプが大統領在職中にツィッターで批判者をブロックしたことは合衆国憲法違反であるという司法的判断が下されている*6

*1:See also https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20061016/1161008215 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20090922/1253616098 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20110328/1301334773 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20110403/1301804644 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20110501/1304191495 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20110502/1304307205 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20110911/1315711374 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20111028/1319820049 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20111209/1323442620 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20130513/1368469143 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20130618/1371518972 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20170829/1503972839 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20170904/1504451545 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20180606/1528263017 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2019/05/03/082857 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2019/10/29/095641 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2020/11/12/150250

*2:https://twitter.com/togemaru_k See also http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180320/1521545409 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180322/1521735826 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180324/1521817988 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180327/1522079446 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180404/1522810591 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180408/1523167515 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180420/1524210748 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180425/1524625976 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180503/1525323385 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180507/1525660176 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180515/1526363020 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180522/1526962984 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180525/1527258646 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180526/1527347080 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180602/1527949714 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180612/1528778849 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180620/1529461445 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180621/1529548733 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180623/1529776858 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180624/1529802385 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180628/1530197448 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180704/1530712511 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180714/1531530628 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180718/1531923814 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180817/1534514850 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180907/1536287108 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180911/1536681700 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20181016/1539651296 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2019/01/18/014735 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2019/02/19/225127 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2019/02/26/102920 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2019/02/28/135920 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2019/03/02/174606 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2019/03/21/014403 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2019/03/25/225758 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2019/04/17/012127 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2019/04/27/010219 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2019/05/07/030224 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2019/06/12/134215 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2019/07/03/220350 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2019/09/19/022310 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2019/10/24/105404 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2019/11/07/094608 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2020/01/08/090422 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2020/02/28/111508 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2020/04/09/094947 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2020/04/19/112314 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2020/04/30/083728 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2020/05/21/234718 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2020/08/07/005446 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2021/03/24/144522 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2021/04/11/214116 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2021/08/14/175848 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2021/08/28/082006

*3:See also https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2021/08/04/154746

*4:Mentioned in https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20080928/1222578269 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20081213/1229142951

*5:「コラム」という表現は意味不明。「真理と政治」は「コラム」ではなく英語の原文で40頁近くある論文である。

*6:See https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2019/07/10/230822