マクベスと連赤 - Living, Loving, Thinking, Again

意味という病 (1979年)

小林敏明『柄谷行人論』*1から。
柄谷行人の２冊目の著書『意味という病』について。
柄谷は『意味という病』の第二版「あとがき」で、この本に収められた「マクベス論」が「連合赤軍」*2事件に「触発」され、書き始められたことを述べている（Cited in p.54）。

では、柄谷の「マクベス論」のどこに連合赤軍の問題が隠されているのであろう。端的にいえば、それは無根拠な観念に取りつかれて無意味な殺人にまで走ってしまうというプロットそのものにある。連合赤軍が山岳アジトにこもって極端な閉鎖集団を形成し、世間から完全に遊離してしまったわずか二〇人ほどの小グループがファナティクに「革命」を唱え、それを「大義」に次々と殺人を犯していくというグロテスクな事態は、ある意味で根拠のない「予言」としての「観念」が自己増殖していって、それに翻弄されてしまうマクベスの姿と同じである。そこではたかだか仲間のささいな目つきや服装が「反革命」とみなされ、それを矯正することが「共産主義化」と呼ばれ、リンチを加えることが「総括」と呼ばれた。この常軌を逸した言葉遣いは自己増殖した観念の畸形以外の何ものでもない。柄谷が『マクベス』の冒頭に関して「事件はもともとどんな現実的契機も根拠もなく、彼らにとりついた「必然性」の観念から生じた」と述べていたが、そこには、まさにそのようなグロテスクな「意味という病」がこめられていたのである。『マクベス論」において連合赤軍に触発された観点はプロットだけにとどまらない。それは登場人物の解釈にも反映している。マクベスとマクベス夫人のペアはそのまま事件の主役森恒夫と永田洋子のアレゴリーである。たとえば柄谷はマクベス夫人についてこう書いている。

夫人はマクベスの「考え」を何の疑いもなく生きはじめる’。しかし、マクベスにとって、それは自分から出た考えでありながら、まさにそれが自分から出たということのために支持ることができないのである。両者のこの関係は、彼らのその後を暗示しているといってよい。夫人の明快なマキャヴェリズムがやがて精神の破綻として終わるのは、結局彼女の目的がマクベスの借りものにすぎなかったからである。
（pp.55-56）

マクベス (白水Uブックス (29))

作者:ウィリアムシェイクスピア
白水社

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*1:Mentioned in https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2024/05/19/150507 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2024/05/21/160440