私的か共同か - Living, Loving, Thinking, Again

matsudama*1「こういうのは突然くる」*2を見て、初めて「スーツさん」というYouTuber*3のことを知らなかった。本名藤田裕人。所謂〈鉄〉系の人で、岩倉高校を卒業して鉄道会社に就職できなかったので横浜国立大学に入学した。
さて、この「スーツさん」が「悟り」を開いたという。
J-CASTニュースの「「悟りを開いた」「社会人としての私は死亡した」人気YouTuberの突然の宣言にファン困惑「何があった...？」」*4から少し切り取っておく；

　Xではこれまで鉄道関連のポストや旅行先での写真をアップするなどしていたスーツさんだが、2025年10月18日に突如として「2025年10月15日に私は悟りを開き、世の中の全てに全く『意味』などないことを完全に自覚しました」と切り出し、「そのため、あらゆる意欲、執着、規範、迷い、悩み、喜びなどを手放しました。そのような物は全て幻想や集団催眠などの類いで、最初から存在しなかったのだと理解したのです」と投稿した。
　続けて「今後、私は精神異常者のように社会から観測されることになると思います」と、自身の言動による世間の反応を予測。「社会など幻想であり、全ての観測もまた幻想であると完全に理解したからです」とし、「私は従うべきものなど何もないと理解し、今後は自在に振る舞うことになるはずです」と予告した。
　さらには、「10月15日をもって、社会人としての私は死亡しました。いまは体だけが留まっており、心は存在しません。最初から心など存在しなかったことを10月15日に自覚しました」とも綴り、その後も「私が死亡しているか、死亡していないかは厳密には判然としない」「この世に存在する『価値』とされるものが全て幻想」などと持論を展開した。

　なお10月20日にはXで「昨日急患に連れて行かれ、MRI等の検査を受けました」とし、検査の結果、異常は見られなかったと報告。引き続き各種検査を受ける予定としながらも、「私個人の見解としては、整理された学問的結論に到達し、それを実践しているだけで、周囲がそれを理解できていないだけにすぎず、いわゆる疾患ではないと考えています」と説明した。

これを見て、或ることを思った。岸田秀『ものぐさ精神分析』*5の中の図式。「私的幻想」と「共同幻想」。現在「スーツさん」はその「悟り」が「私的幻想」に止まり、「精神異常者のように社会から観測されることになる」可能性が高い。他方、その「悟り」が他者に共有されると、「私的幻想」は「共同幻想」となり、「スーツさん」は「精神異常者」ではなくカリスマ的な教祖になるのかもしれない。まあ井筒俊彦先生の『意識と本質』*6の言葉遣いで言えば、これは素朴に信じ込まれていた「本質」と「分節」が否定された第２段階だが、来るべき第３段階では「本質」から解放された「心」が回帰してくる筈である。