岸政彦氏*1曰く、
そういえば初期「解放社会学会」に集まったひとたちがガーフィンケルをパーソンズに対する反差別革命みたいにして祭り上げたのと、昭和の評論家たちがジャズを黒人による反差別革命みたいに描いたのはとてもよく似てるな。理論的・方法論的革命を「実際の」革命と同一視するとことか
— 岸政彦 (@sociologbook) 2020年10月2日
そういえば、野口久光、油井正一*2、植草甚一*3、清水俊彦、相倉久人、平岡正明*4『昭和ジャズ論集成』(平凡社、2020)という本が刊行されているのを知ったので、図書館から借り出してみた。奥付を見ると、上の6人(何れも故人)の共著というかたちになっており、編者が誰なのかはわからない。ただ、岡崎正通という方が巻末に「六氏の肖像――解説に代えて」という文章を寄せており(pp.422-428)、また浜野サトル氏が「まえがき」を書いている(pp.2-4)。この2人が実質的な編者ということになるのだろうか。因みに、この浜野サトル氏ってそもそもボブ・ディランの紹介・研究で有名な人ですよね?
浜野氏の「まえがき」から少し抜書きをしてみる。浜野氏は日本におけるジャズ論の起点を1947年の「日本で初のジャズ専門誌」である『スイングジャーナル』創刊に置いている。
戦前から戦後まもない時期にかけてジャズについて発言したのは、野口久光、油井正一に代表されるジャズ愛好家、レコード・コレクターだった。ジャズと誠実に向き合う姿勢は疑う余地がないが、書かれるものの大半は「如何にして音楽を楽しく享受するか」という範囲を出るものではなかった。ひとり植草甚一だけは海外の文献から引っ張ってくる形でアメリカの人種問題などに積極的にふれたが、その根底にあったのはジャズという異国の文化を楽しむ上で欠かせない背景知識であって、その視線はあくまでも「都会の趣味人の関心」の枠内にあった。
時が一九六〇(昭和三十五)年からの十年間に入ると、この状況が一変する。
それ先立つ一九五九年、石原慎太郎による小説「ファンキー・ジャンプ」が『文學界』に発表された。日本初のジャズ小説といわれる作品だが、そこで描かれたのは、ドラッグに耽溺し、自由奔放に生きるジャズ・ミュージシャンの姿であり、反社会性の象徴としてのジャズだった。
それを裏書きするように、五〇年代後半に火がついた六〇年安保闘争の担い手となった学生や社会人の多くがジャズを好み、ジャズをヨーロッパ・クラシック音楽に対抗する同時代音楽として称揚した。東京・大阪など大都市の街には最新のジャズ・レコードを聴かせるジャズ喫茶*5が次々に誕生し、ここにも時の政治に批判的な若者たちが集まった。その中から、ジャズを娯楽として享受するだけにとどまらず、その意義や意味を問う機運が生まれ、ジャズ・ファンの間から生まれた同人雑誌などで盛んに論戦が展開された。
さらに一九六〇年代も後半に入ると、『スイングジャーナル』と袂を分かった相倉久人がオーディオ誌など音楽周辺のメディア先鋭な評論活動を展開するようになり、『スイングジャーナル』にはなかった、アメリカの人種問題とからめてのジャズ論を次々に発表する。その活動の拠点づくりとして一九六七年に『ジャズ批評』誌が生まれてからは、編集同人としてそこに加わった平岡正明らとともに、ジャズと現実社会との接点を探ろうとする論考が、既存の音楽評論とは一線を画した新しいジャズ論を形成していくことになる。政治と現実に傾斜していく相倉・平岡とは別に、清水俊彦は「アヴァンギャルド論」の視点からジャズの新しい動きに焦点を当てる評論活動を展開し、ジャズ・ジャーナリズムに新風を吹き込んだことも見逃せない。(pp.3-4)
*1:See also http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20060319/1142788647 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070829/1188353971 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080723/1216825955 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080724/1216861749 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080809/1218295202 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160504/1462383886 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20161121/1479732505 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20161220/1482200426 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2019/06/28/202730 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2019/08/31/221623 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2019/09/22/092335 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2019/10/15/143034 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2019/10/19/104657 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2020/01/08/025057 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2020/03/14/015708
*2:See also https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2020/04/16/040735
*3:See also https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20080130/1201705768 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20090525/1243218089 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20110829/1314543718 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20150730/1438275807
*4:See also https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20070327/1175000516 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20090709/1247162668 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20091019/1255976160 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20130227/1361977814 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20161014/1476463918 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20170411/1491886304 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2020/04/16/040735 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2020/05/19/141445
*5:See also https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20070325/1174834138 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20071024/1193237687 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20100420/1271764646 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20110713/1310574074 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20170724/1500867471 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20180614/1528938490 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20180626/1529984303 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2019/01/18/010942 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2019/01/28/004654 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2019/03/19/032018 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2019/07/15/012005 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2019/07/25/014418