「映画館」にて（「99の接吻」） - Living, Loving, Thinking, Again

作者: 鹿島田真希
出版社/メーカー: 河出書房新社
発売日: 2015/01/07
メディア: 文庫
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鹿島田真希「99の接吻」（in 『冥土めぐり』）から抜書き。

「ねえ、母さん、別れた父さんのセックスはどうだった？」
萌子姉さんが電気ブランを飲みながら尋ねる。母さんも電気ブランを飲んでいる。母さんは真っ赤になって笑う。
その夜、わたしたちはジャズ喫茶「映画館」へ母と出かけた。この喫茶店には、「二十四時間の情事」*1や「去年マリエンバートで」*2などのポスターが貼ってあって、わたしたち姉妹はなかなか気に入っている。母はもともとアラン・レネが好きで、母が観るビデオをわたしたちは幼い頃から一緒に観ていた。それからずっとこの喫茶店をひいきにしていた。ジャズ喫茶で、電気ブランを飲む。そんなことも、もう子供の頃からやっていたのだ。
「父さんたらね、私とはじめてやった時のことを日記に書いていて、私、ある時、それを見つけちゃたの。デルタ地帯がどうのこうのとか書いてあって、おかしかったわ」
わたちたち四人は酔っ払って笑う。母さんは、酔うといつも性的な話をする。わたしたちはそれが面白くて、母親にどんどん酒を飲ませて聞き出すのだ。
「それで、父さんのセックスはうまかった？」
芽衣子姉さんが尋ねる。
「そうねえ、持っているものは大したものじゃなかったけど、なかなかテクニックはあったわねえ」（pp.103-104）