1992年に24歳で自死した漫画家の山田花子*1の本名は高市由美である。Wikipediaの記述によれば、「1967年6月、東京都千代田区三楽病院でトロツキストの著述家高市俊皓の長女として生まれる」*2。この家族があの自称元「米連邦議会立法調査官」と親戚であるかどうかはわからない。
さて、高市俊皓は花子の遺稿を『自殺直前日記』として編集し、長めのあとがき「高市由美・特殊漫画家 山田花子を偲んで」を書いている*3。そこでは、高市俊皓は先ず(娘のことではなく)自分のことを語っている。
引用してみる;
一流高校―東京大学―上級国家公務員試験合格―高級官僚に。私の親父は、私を典型的な立身出世型の人間に育て上げようとした。親父は常日頃、私に昔の修身の教科書そのままの道徳を説いた後で必ず「お前の人生の目的は東大を首席で卒業して偉い役人になることだ」と言って聞かせた。人生のある時期まで、私はそんな親父を尊敬していた。親父の期待に応えたいと思ってきた。しかし、成長するに従って、私は親父の人生観や価値観に疑問を持つようになった。親父の偽善に気付いたこともあった。また、私には親父の期待に応えられる能力がないことに気付いたこともあった。しかし、最大の問題は立身出世して富や社会的な地位を追い求めることが果して人生の目的たり得るのかという疑問であった。大学受験も真近に迫った高三の時のことだった。
高市俊皓は〈60年安保〉*4世代のようだが、私は全然知らなかったし、ネットで検索しても、彼についての情報、どのようなテーマで、どのような媒体に、どのような文章を書いていたのかはわからなかった。
一九六〇年四月、私は東京学芸大学に入学した。相変わらず新聞店で働きながら通学した。親からの仕送りはなかった。親父と喧嘩したからじゃない。生活保護とお袋の僅かばかりの稼ぎで暮らしている両親に、仕送りする余裕はなかったのだ。この頃には親父も私の生き方を認めていた。私が大学に入った年は、御存知「六十年安保」たけなわの頃だった。連日、クラス討論―全学集会―国会デモへ、というのがお決りのコースだった。ところが、我が級友達(中学理科教師課程)の殆どが集会やデモに参加しようとしなかった。平穏無事に卒業したい、学生運動に参加して就職不利にしたくない、というのが本当の理由なのに、「学生の本分は勉強だから…」などともっともらしいことを言うので、むしょうに腹が立って騒ぎまくっていた。気がついたら何時のまにか執行委員になっていた。
安保闘争が終った後、ストライキを決議する為に開かれた学生大会で、賛否両論が伯仲してなかなか決着が付かなかった時、私が激烈な大演説!?をぶって、決議を通過させたこともあった。私が先頭に立って会場の体育館に突入して、教授会を流会させてしまったこともあった。学校側に「十分反省して、二度としませんと誓えば退学だけは許してやる」みたいな事を言われたが、私は拒否して帰ってきてしまった。お陰様で、その後間もなく退学になった。学生運動の渦中で、私はマルクス、エンゲルス、レーニン、トロツキーなどの著書を夢中になって読んだ。中でも、以後の私の生き方に決定的な影響を与えたのはトロツキーだった。トロツキーの思想や理論に共鳴したことは言うまでもないが、私はより以上にトロツキーの生き方に共感・共鳴した。一九二〇年代末~三〇年代にかけて、十月革命を担ったかつての同志達が、保身の為に次々とスターリンに降伏していく中で、トロツキーは敢然とスターリンに闘いを挑んだ。トロツキーは一九二九年に国外追放になり、一九四〇年にスターリンの放った暗殺者に、頭にピッケルを打込まれてその生涯を閉じた。私はとてもトロツキーのようには生きられないと思ったが、トロツキーのように生きたいという志だけは持ち続けたいと思った。
安保闘争が終って三年もたったころ、一人また一人と運動から去って行った。私は数少なくなった仲間と共に運動に踏み止まり、現在も社会主義を目指す文筆活動を続けている。
さるなし夢子「 上質な混沌の欠片――山田花子『自殺直前日記』」https://note.com/dare_ef/n/n54c38fd3a18b
曰く、
この〝混沌〟をそのまま吐き出したような言葉の数々が、読者の手に取れる形として残っているのは、彼女の父・高市俊皓氏の尽力あってのことだ。
亡くなった本人は、もしかすると「余計なことを」と草葉の陰で思ったかもしれないけれど、それでも私は、この本が世に出たことは高く評価されるべきだと思う。蛭子能収は山田花子の死に際して、「芸術をやる人間にとって自殺というのは、最大の芸術を完成させることではないかと思う」といった趣旨のコメントを寄せているが、その言葉がすべてという気がする。
なお蛭子さんは近年、認知症を患っていることを公表。最近では、特殊漫画家・根本敬監修の元、「最後の個展」と銘打ったアート展を開催した。
根本曰く「幼児みたいな絵に見えても75歳、認知症の蛭子能収にしか描けない絵」を描く〝芸術家〟となった蛭子さんは、プロ漫画家以前の〝混沌の世界〟に立ち返ったのかもしれない。
山田花子、蛭子能収と同じくガロ系とされる漫画家・ねこぢるも、上質な混沌の欠片を吐き出すことに長けていた。
彼女はその欠片を、夫である鬼畜漫画家・山野一と共同で作品に纏め上げるというスタイルを採っていた作家であった。
(余談であるが、ねこぢるの担当編集者は、山田花子の実妹であったという。)乱暴な括り方ではあるが、いわゆる「ガロ系」とされる漫画家には、“上質な混沌”を吐き出す人と、それを世に出す人、という構図が散見される。
逆を言えば、世に出せる形に“翻訳”なり“説明”する人がいなければ、その混沌がどれだけ上質であっても、我々読者の目には届かないということだ。山田花子の場合、雑然とした“混沌”だったものが、「自殺」という出来事によって、読者の理解できる形に“まとまった”のだと思う。
「死」のセンセーショナルさを以って大衆性を獲得した、とも言い替えられるかと思う。高野悦子が鉄道自殺していなかったら、『二十歳の原点』が文学に成り得なかったように。(それはちょっと違うかもしれない)
*1:同名の藝人とは別人。
*2:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B1%B1%E7%94%B0%E8%8A%B1%E5%AD%90_(%E6%BC%AB%E7%94%BB%E5%AE%B6)
*3:それを全文収録したblogがhttps://kougasetumei.hatenablog.com/entry/takaichitoshihiro それによると、高市俊皓は2012年に鬼籍に入っている。
*4:See also https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20060427/1146140520 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20070523/1179897577 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20080619/1213852805 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20090810/1249904638 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20100715/1279195806 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20110407/1302191011 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20110615/1308109789 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20110813/1313262503 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20110814/1313322168 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20111024/1319416350 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20120529/1338312298 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20130628/1372431522 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20131018/1382023010 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20131116/1384584256 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20131122/1385081575 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20131223/1387777644 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20140616/1402883529 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20161024/1477328511 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20180410/1523376870 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20180714/1531581302 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2020/01/21/114034 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2020/03/02/024745 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2020/03/11/030353 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2020/07/13/091854 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2020/07/27/123144 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2020/10/21/093044 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2020/11/12/101259 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2024/06/25/095158 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2024/06/25/155632 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2024/09/13/114254 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2024/09/13/114254