ダンスから安保へ

裸の夏 The Naked Summer [DVD]

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先日、岡部憲治のドキュメンタリー『裸の夏 The Naked Summer』を観た。2003年8月に長野県白馬村で行われた「大駱駝艦」の夏合宿を描いたもの。映画では麿赤児の過去の作品の映像をところどころに引用しながら、稽古、麿のレクチャー、そして全員裸体に金粉を塗っての最後の公演を淡々と描いてゆく。撮影は是枝裕和の『誰も知らない』や『歩いても歩いても』*1の撮影を担当した山崎裕。作品の構成としては、(こういうテーマだとありがちなように)無闇に合宿参加者のライフ・ヒストリーを深追いせず、〈映画的現在〉、つまりここでは舞踏に集中していたのがよかった。素人がダンスに挑戦するドキュメンタリーとしては、ピナ・バウシュ最後の映像ともなったAnne LinselのTanzträume: Jugendliche Tanzen "Kontakthof" von Pina Bauschがある*2。こちらの方は参加者のライフ・ヒストリーにより踏み込んで入るが、だからといって〈映画的現在〉がおろそかになっているわけではない。ところで、麿赤児とは誰かということが知りたい人は特典映像の長いインタヴューを観るべし。

誰も知らない [DVD]

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歩いても歩いても [DVD]

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今日は〈安保の日〉だったのだ*3。Linda Hoglundの『ANPO』を観る。会田誠の、日本人にとって例えば仏蘭西が好きか嫌いかというのは個人の趣味の問題として済まされるところがあるけどアメリカが好きか嫌いかというのはそういうことでは済まないところがあるという発言で始まる。映画は60年安保にコミットしたアーティストたちの証言を中心に構成されている。証言するのは、串田和美朝倉摂東松照明中村宏池田龍雄、石内郁、石川真生、細江英公、姫野京子、桂川寛*4加藤登紀子横尾忠則*5など。アーティストではないが、半藤一利保阪正康も証言を行っている。それから、山下菊二の作品もフィーチャーされ、山下の夫人が彼の戦争体験について聞いたことを証言している。ランダムに幾つか述べてみる。ここに登場するアーティストたちの社会的状況或いは実存的状況は(左翼世界公認の)社会主義リアリズムによって表現することは不可能で、表現主義シュールレアリスムといったスタイルが必然的に選択されざるを得なかった。また、この映画では1960年と現在との関係も問われていて、それは〈安保〉が不可視になっているヤマトと(ヤマトの分まで〈安保〉を押し付けられる仕方で)〈安保〉が可視的なままである沖縄との対比ということで表現されている。それから、当時の日本人の反戦意識というか不戦意識についてだが、当時はまだ戦争の記憶が鮮明だったということがある。1960年というのは1945年の敗戦から15年後だが、今年2011年は1996年の阪神大震災地下鉄サリン事件のちょうど15年後である。また、当時の青年層(30代以下の人たち)は兵隊になって鉄砲を撃つという仕方ではなく、空襲を蒙るという受動的な仕方で経験していた。また、60年安保は日本の内政の問題としては、〈岸信介打倒運動〉の性格が強かった。岸以外の人間が首相だったらあれほどの反対運動が盛り上がっていたかどうか。所謂〈55年体制〉を巡って、雨宮昭一は『占領と改革』で、

五二年四月二八日、日本はサンフランシスコ講和条約を調印して独立した。五四年から五五年にかけての第一次鳩山一郎内閣のとき、与党民主党をはじめとする保守政党憲法改正を正面から掲げた。一方、護憲派も、「憲法擁護国民連合」などを結成して、それに真っ向から対決した。占領軍の直接の干渉がないところで日本国憲法を改正するか、しないかという問題が独立後はじめて正面から争われたのである。この過程で日本国民は戦争の悲惨さと第九条を結びつけ、五五年の衆議院選挙では護憲派が護憲に必要な議席を獲得した。これは日本国民が主体的に憲法を選びとったことを明白にあらわしている。言い換えれば、このときに初めて日本国憲法体制が成立したのである(雨宮昭一 『戦時戦後体制論』)。(p.92)
と書いている。これに関係づけて言えば、60年安保は日本人自身による〈東京裁判〉のやり直しという側面を有していたことになる。岸信介*6大東亜戦争開戦の詔書に閣僚として署名した人物であり、戦後はA級戦犯として逮捕されながらも裁判にもかけられず、理由不明なまま(笹川良一らとともに)釈放され、何時の間にか政界の中枢に復活し、米国に媚を売ろうとしている。これってどうよというわけだ。
ANPO [DVD]

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占領と改革―シリーズ日本近現代史〈7〉 (岩波新書)

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ダンスから安保へ。そして、再びダンスへ;


http://d.hatena.ne.jp/slideriver/20110608/1307779834


『ブラック・スワン』*7のレヴューを見つけたのでマークしておく。

*1:Mentioned in http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110109/1294555858

*2:See http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110305/1299297204

*3:60年安保については、http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20060427/1146140520 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20061010/1160499009 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090201/1233419203 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20100715/1279195806 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110407/1302191011も。

*4:See http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20081124/1227462507 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090419/1240151128

*5:See also http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20081008/1223493959 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090904/1252003896 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20101106/1289015746

*6:See also http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20060922/1158953499 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20061010/1160499009 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070116/1168966875 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070903/1188853831 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20081231/1230688443 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090826/1251225298 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090909/1252508806 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20100203/1265216736 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20100628/1277652782

*7:See also http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110127/1296107547 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110129/1296326503 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110226/1298693399 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110228/1298914921 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110523/1306149532 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110526/1306433117 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110530/1306777342