- 作者: 井上輝子
- 出版社/メーカー: 勁草書房
- 発売日: 1980/01
- メディア: 単行本
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井上輝子『女性学とその周辺』*1からのメモ。
かなり長めの「あとがき」(pp.215-238)から*2。「外務省機密漏洩事件」*3について;
また、〈60年安保〉*8を巡って;
(前略)外務省事務官の蓮見喜久子さんと毎日新聞の西山太吉記者が、沖縄密約事件にかかわって国家公務員法違反容疑で逮捕されたのは、この年*4四月四日のことだった。市川房枝さんや、佐々木静子さん*5、土井たか子さん等の社会党代議士、松岡洋子さんも加って、四月一八日、「蓮見さんのことを考える女性の会」*6が結成された。学習会やカンパ活動、アピール表明などを経て、第一回公判を前にした一〇月、「政治・女・知る権利」と題する講演・討論集会を開催し、パンフレット『蓮見さんをなぜ裁くのか』を発行した。
これには私も、「沖縄密約事件から蓮見さん問題まで」の文を寄せている。知る権利の主張を共通問題としてもちながらも、この事件にたいする関心は、会員各自によってもさまざまであった。私の関心は、政治的な事件が個人的なスキャンダルの文脈で語られ、そのことがまた政治的な意味をもつという、奇妙なメカニズムにあった。蓮見さんは確信犯ではなかった。だから事件に関して彼女は個人的な心情しか語らなかった。それをよいことにして、国民の知る権利は霧散し、情報源秘匿を怠った社会党議員*7や西山記者の責任は不問に付されてしまった。西山記者が「国民の知る権利」という社会正義を掲げたのにたいして、蓮見さんはそれができない。かといって、「情事」を正当化して、居直ることもできない。そうした蓮見さんの態度には、女性に与えられた文化的制約が深く浸透しているように思われた。それ故、私はあえて、「蓮見さん問題」としたのである。(pp.226-227)
社会学におけるジェンダー・ステレオタイプについて;
思えば、安保闘争は多様な性格をもつ運動であった。労働者の、市民の、知識人の、学生の、そして女性の社会にたいする異議申立てが、安保という一つの表象をかりて噴出した。資本家と労働者という階級対立の二分法の図式では、もはや認識できない運動であった。だから、安保を体験して女性問題に沈潜したとしても、必ずしも逸脱だとは思わない。安保後の、池田内閣に始まる高度経済成長政策は、膨大な数の中間階層を生み出し、中間階層意識を社会的に定着させた。ここにおいて、女性問題は独自の領域をもち、女性解放は独自の運動として育っていくわけであるが、もとよりこのことを明瞭に認識したのは、後年のことである。(p.218)
駒場の二年がおわって、本郷の文学部社会学科に進んだ。社会学の研究室を訪ねたとき、ある先輩からいきなり、「君は家族社会学をやるんですか、それとも婦人労働問題ですか」と聞かれた。そのように断定されるいわれはないのだけれども、多分私が女性であることから、こうした推測がなされたのだろうと直感した。女性だから家族問題か婦人労働問題の研究をするにちがいないという予断は、迷惑だった。私は女性問題に関心をもつにしても、まずは社会学の何たるかを学びたいと思っていた。もっともその時には、自分の意志を充分表現できず、口ごもってしまったのであったが。(ibid.)
*1:Mentioned in http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20131222/1387687939
*2:「女性と一九七〇年代と私」という副題がついている。
*3:See http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20120204/1328319659
*4:1972年。
*5:See eg. http://kokkai.sugawarataku.net/giin/c00796.html http://kinran.jp/kokoni/sasaki/sangiin.html
*6:See eg. http://netabare1.blog137.fc2.com/blog-entry-1699.html
*8:See also http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20060427/1146140520 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20060920/1158717336 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20061010/1160499009 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070523/1179897577 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20081119/1227023221 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20081231/1230688443 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090201/1233419203 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090810/1249904638 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20100715/1279195806 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20100729/1280415113 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110407/1302191011 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110609/1307650973 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110615/1308109789 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110813/1313262503 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110814/1313322168 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20111024/1319416350 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20120316/1331898804 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20120529/1338312298 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20130628/1372431522 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20131018/1382023010 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20131101/1383270529 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20131116/1384584256 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20131122/1385081575 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20131220/1387545519