Fish out of the Water(原発論争其の二)

『毎日』の記事;


「ガスマスクずれ吸った」作業の東電社員

 東京電力福島第1原子力発電所の事故処理に当たる作業員の多くが、被ばく量を測る放射線量計を携行していなかったことが分かったが、現場では実際にどのように作業が進められているのか。原発敷地内で数日間働き、自身も線量計を持たなかった東電社員の男性が毎日新聞の取材に応じ、作業実態の一端を明かした。【中川聡子、日下部聡】
 ◇家族に告げず

 男性は3月中旬、上司から福島出張を打診され、「行きます」と応じた。その夜、本社に集合。幹部から「とりあえず行け。何とかしてこい」と言われ、着の身着のまま他の20〜40代の作業員数人とワンボックスカーに乗った。「家族には心配をかけるだけだから福島行きは報告できなかった」。一方、友人には「2週間たって帰ってこなかったら両親に連絡してくれ」と頼み、出発した。

 作業は外部電源の引き込みだった。でも「現場がどうなっているのか、原発に入るまで全く分からなかった。既に同僚ががれきを片付け鉄板を敷き、足場を整えていたが、それも現場に入るまで知らなかった」。

 自衛隊や消防も待機場所とする福島県楢葉町の運動施設でいったん待機し、現場の放射線量が下がったことを確認して原発へ。顔全体を覆うマスク、ゴム手袋、長靴のほか、普通の作業服の上にガーゼのような白い布製の上下を着た。「きちんとした防護服は恐らく早い段階で切らして足りない状態になっていた」。さらに「長靴の上にもビニール製の防護をつけるべきだが、自分たちはコンビニでも買えるような簡単なゴミ袋のようなものを長靴の上にはいて、ガムテープで巻き付けただけだった」という。

 車で原発敷地内に入ると、最も線量が多いとされる3、4号機付近は猛スピードで駆け抜けた。現場に到着すると駆け出し作業に当たった。
 ◇「現場で判断を」

 ガスマスクをしているため、大声を張り上げないと意思疎通がままならない。本部との連絡手段は携帯電話1台だけ。とはいえ本部も混乱しているため、指示を受けたり報告したりしている余裕はない。「現場で判断しろ、ということだった」。ところが作業中、本部から突然、終了時間変更の指示が飛び、混乱に拍車がかかった。

 本来なら3〜4時間で終わる作業にのべ2日かかった。「ガスマスクとかで非常に動きづらいし、作業の際にマスクがずれる場面は何度もあった。多分、かなり(放射性物質を含む空気を)吸ってるだろうなと思う」。線量計はリーダー格の1台だけで、他の作業員は持っていなかった。

 3月24日に3号機のタービン建屋で作業員2人が汚染された水たまりで被ばくしたことについては「自分たちも可能性はあった」という。敷地内は地震の影響であちこち陥没して穴があり、水がしみ出していた。ガスマスクが邪魔で足元を確認できず、同僚が何人も穴に落ちた。
 ◇健康に不安 

 「アラームが鳴っても作業を続けた(2人の)気持ちもよく分かる。『他にやる人間がいないんだから、とにかくやらないといけない。やるまで帰れない』という焦りは現場では強い」と語る。

 敷地内では水素爆発の影響なのか車が建屋の外壁に刺さり、あちこちに津波で運ばれた大きな魚やサメが転がり、それを狙った鳥が上空を旋回していた。「ガスマスクの『シュー、シュー』『パコパコ』という音が響き、白装束の自分たちが作業している。全く現実感のない世界だった」と振り返る。

 最終日に被ばくの検査をしたが、人数が多く丸1日かかった。異常はないとされ、帰社すると「よくやった」と上司がねぎらってくれた。それでも「長期的な影響については不安だ」と漏らした。
 ◇震災で混乱、激減

 なぜ、原発復旧に携わる全作業員に線量計が行き渡らないのか。東京電力は31日夜、福島第1原発内に約5000台あった線量計地震津波で壊れて320台に激減し、チームで作業に当たる際に代表者1人だけに持たせていることを明らかにしたが、実際には震災当日の混乱で線量計が持ち出されたり、捨てられるケースも少なくなかった。

 原発では作業員が放射線管理区域から出る際、線量計を返却しなければならないが、3月11日の地震発生時はパニック状態となり多くの作業員が線量計を着けたまま逃げた。タービン建屋にいた作業員の男性は「線量計は東電の用意したかごに入れて外に出るが、そんなことはしなかった」と証言。東電関連会社の男性社員(40)も「そのまま帰宅した人が多かった。ゴミ箱に捨てられていた線量計もあったので回収したが、少ししか集まらなかった」と話す。
 ◇販売会社に在庫なし

 問題が表面化したことで東電側は全員の線量計確保を目指すとしているが、放射線関連機器販売大手の「千代田テクノル」(本社・東京)によると、線量計の在庫はほとんどない状態という。【町田徳丈、日下部聡】
http://mainichi.jp/select/weathernews/20110311/nuclear/news/20110402k0000m040147000c.html

「 敷地内では水素爆発の影響なのか車が建屋の外壁に刺さり、あちこちに津波で運ばれた大きな魚やサメが転がり、それを狙った鳥が上空を旋回していた」。これ以後シュールレアリスムの絵画を観る人はどうなるのだろうか。全然シュールじゃなくてただのリアリズムじゃないかということになる?
「防護服」や「線量計」の不足。米国、中国、露西亜、それから北朝鮮といった核保有国に提供を要請するべきなのだろう。

さて、http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110331/1301545326に対して、


osaan 2011/03/31 14:58 91年か2年の頃、妻が当時ライターをしていた雑誌に東電から広告の申し込みがあり、かなり「おいしい」料金だったので受けることになったそうです。
ところが、最初自然力の発電についての広告という話だったのに、途中から「原発に特化してくれ」と言い出しました。
料金も上乗せする、ということでしたが、当時の編集長が「ウチは原発だけは絶対載せないから」とつっぱねたとのこと。
こういう具合に東電は、そこら中で「金ぐつわ」を噛ませていたのでしょうね。
だいたいチェルノブイリ以降は「反原発」とはっきりせずとも、底流の反発はずっと続いて存在していたわけですし。
ちなみに雑誌の名前は「すてきな奥さん」です。
http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110331/1301545326#c1301551112
「91年か2年の頃」というと、「チェルノブイリ」の記憶もやや薄れて、〈地球温暖化〉問題に引っ掛けて、原発=エコという言説が顕在的になりつつあった時代ですよね。だからといって、温暖化=原発推進勢力による陰謀(笑)*1というわけにはならないと思いますが。
また、大学の「寄付講座」問題について、純丘曜彰という人が追及しているので、それを取り敢えずマークしておきます;


http://news.livedoor.com/article/detail/5444745/


さて、上掲の『毎日』の記事とも関連して、


雨宮処凛「震災から見えたこの国の歪み。」http://www.magazine9.jp/osanpo/110323/


曰く、


原発の問題について、書きたいことはいろいろあるが、驚いたのは、東電の下請け会社の作業員3人が被曝したという問題だ。足に水がつかった状態で作業してて被曝したということだが、その後出てくる事実は「こんな大雑把なの?」と唖然とすることの連続だった。当日に線量の測定をしていなかったり、線量計のアラームが鳴っても故障かと思っていたり、人によって長靴だったり短靴だったり。

 これらの事実から見えてくるのは、ちゃんとした安全教育がなされていない人たちが、安全に対する配慮がなされていない状況に送り込まれているという、あまりにも杜撰な実態だ。

 そんな事実に愕然としながら、「日雇い派遣」について取材した時のことを思い出していた。明らかに現場にはアスベストが舞っているのに「アスベストじゃない」と言い張られ、なんの装備もないままに危険な仕事をさせられたとか、同じ仕事をするにも、派遣会社や派遣先によって安全対策がまったく違うとか、そして結局現場でもっとも危ない仕事に従事させられるのは日雇い派遣の人であるとか。


中島岳志*2「保守派の私が原発に反対してきた理由」http://news.livedoor.com/article/detail/5452553/


その中から「保守主義*3一般のスタンスについて述べている部分をカットしておく;


 保守思想は「理性万能主義に対する懐疑」からスタートします。人間はこれまでも、これからも永遠に不完全な存在で、その人間の理性には決定的な限界があります。どれほど人間が努力しても、永遠に理想社会の構築は難しく、世界の理想的なクライマックスなど出現しないという諦念を保守主義者は共有します。

 保守主義者は理性や知性の限界に謙虚に向き合い、人間の能力に対する過信を諌めます。だから、保守派は人間の理性を超えた存在に対する関心を抱きます。神のような絶対者、そして歴史的に構成されてきた伝統や慣習、良識。保守派は、多くの人間が蓄積してきた社会的経験知を重視し、漸進的な改革を志向します。革命のような極端な変化を志向する背景には、必ず人間の理性・知性に対する驕り・傲慢が潜んでいるため、保守派はそのような立場を賢明に避けようとします。

 保守派が疑っているのは、設計主義的な合理主義です。一部の人間の合理的な知性によって、完成された社会を設計することができるという発想を根源的に疑います。人間が不完全な存在である以上、人間によって構成される社会は永遠に不完全で、人間の作り出すものにも絶対的な限界が存在します。

 そのため、真の保守主義者は科学技術に対する妄信に冷水をかけようとします。人間が設計するものは普遍的に不完全です。人間の技術と想定には絶対的な限界が存在するため、「100%壊れない」ものなど存在しようがありません。そのようなものは神の領域にのみ存在しうるものです。人間は絶対者ではありません。科学技術の領域で「絶対」を語ることは、人間を絶対者と取り違える危険な思考です。

 世界は想定外のもので満ち溢れています。すべてを理知的に把握し、制御することなどできません。世界は普遍的に想定外の存在です。だからこそ人間は、この世界に夢をもって生きることができます。すべてが想定された世界で、果たして人間は喜びを持って生きることができるでしょうか。すべてが理知的に把握され、完全な存在にのみ囲まれて生きることなどできるでしょうか。


河野太郎再生可能エネルギー100%を目指す」http://news.livedoor.com/article/detail/5457617/


自民党脱原発派〉による脱原発プラン。また、


鈴木耕「原発が奪ったもの…」http://www.magazine9.jp/osanpo/110323/


http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110331/1301545326に対するコメントに戻ると、


nessko*4 2011/03/31 16:54 広瀬隆は、反原発運動にとっての放射性物質みたいな存在なんじゃないかなあ。
でも、『危険な話』で原発に興味持った人が多いのはたしかですね。
http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110331/1301545326#c1301558099
広瀬氏は最初〈東京に原発を!〉という主張をしていて、それが反原発運動の中の〈しゃれの通じない人たち〉には通じなかったという経験があったと思います。(詳しく・精確に検討しているわけではないのですが)広瀬氏の〈罪〉のひとつは、(例えば)『週刊金曜日』読者層が〈ユダヤ陰謀論〉にはまるきっかけをつくったということではないかと思います(但し、あくまでも思いつきなので詳しい検証が必要)。

ところで、「東電国有化」だけど、これは補償も含めたこの度の事故の後始末を「主権者国民」の税金によって引き受けるということを意味するのでは? これについて、「減税日本」とかが大好きな名古屋近辺の「主権者国民」も承知するのかどうか。
See eg.


http://d.hatena.ne.jp/potato_gnocchi/20110314/p1