「神人共食」 - Living, Loving, Thinking, Again

湯川豊 *1「神と一体化し、人の絆を強める」『毎日新聞』2021年３月13日

原田信男*2『共食の社会史』という本の書評。
原田によれば、他人と食を共にする「共食」は「神人共食」、「ナオラヒ」（直会）に淵源を持つ。
湯川氏による紹介を少し書き写しておく；

労働をめぐる共食というものを、かつて私たちは持っていた。春の田植祭、秋の収穫祭である霜月祭 *3。春は予祝、秋は感謝の祭だが、花見の共食なども、田植祭に準ずる予祝が働いている。また収穫祭が霜月（十一月）に行われるのは、穀霊の死と再生の認識を背負っていて、翌年の豊作を予祝している、という。これらは地域の支配者（たとえば領主）が農民の代表を相手に行わなければならない行事、すなわち一種の政治である。その政治性は、国家の大祀につながっている。
昔の天皇の共食儀礼の最大のものは新嘗祭 *4である。天皇による神人共食で、各地の領主が献供する食物（特に穀物、なかでも米）を天皇が神に捧げる。天皇もそれをいただき、神人共食が成立する。たとえば各地の豪族が天皇支配に従うのは、この神人共食という祭祀権を譲り渡すことである。それによって天皇は収める領域（国）を少しずつでも広げていくわけだ。
大嘗祭 *5は、「神人共食」と新天皇即位の行事を合体させたもの、と原田氏は受け止めている。新天皇が祖神であるアマテラスと「共食」する。共食して、新天皇は祖神と同格の神になる。そこで、天皇という身分が確定する、と言い換えることができるだろう。そして豊明節会のような直会によって、天皇支配による宮廷の一体化と、参加者の位置が確認される。神人共食が政治的な力となり、宮廷による支配を整えてゆくという、この説述も説得力十分。

*1:See also https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20130325/1364141796 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20130406/1365204988 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20130408/1365430783 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20180122/1516594067 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2019/12/11/090211

*2:See also https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20110626/1309087905

*3:See also https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20101228/1293511035

*4:See also https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20070101/1167668245 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20070224/1172288193 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20090216/1234758392 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20150104/1420390585 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2019/11/08/010945 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2019/11/19/104356 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2020/06/30/133637