仲宗根雅則「無神論者がクリスマスに熱狂する理由(わけ)」http://bylines.news.yahoo.co.jp/nakasonemasanori/20141222-00041722/
かなりベタな結論。こういうのはね、例えばウィルス感染のメタファーを使って〈文化ウィルス論〉として展開すれば、それなりにかっこよく見えるのだけれど。
だからこそ、中国の「西北大学現代学院」や温州市「教育局」はクリスマス活動を禁止したわけだ*1(笑)。
優れた文明は多くの場合、その文明を生み出した国や地域の文化も伴なって世界に展延していく。そのために便利な文明を手に入れた人々は、その文明に連れてやって来た、文明を生み出した国や地域の文化もまた優れたものとして、容易に受け入れる傾向がある。たとえば日本人は「ザンギリ頭を叩いてみれば文明開化の音がする」と言われた時代から、必死になって西洋文明を見習い、模倣し、ほぼ自家薬籠中のものにしてきた。その日本人が、仏教文化や神道文化に照らし合わせると異なものであり、不可解なものであるクリスマスを受け入れて、今や当たり前に祝うようになったのは一つの典型である。
西洋文明の恩恵にあずかった、日本以外の非キリスト教世界の人々も同じ道を辿った。彼らは優れた文明と共にやって来た、優劣では測れないクリスマスという「特殊な」文化もまた優れている、と自動的に見なした。あるいは錯覚した。
そうやってクリスマスは、無心論者を含む世界中の多くの人が祝い楽しむ行事になった。それって、いかにも凄いことだと思うが、どうだろうか。
「西洋文明の恩恵にあずかった」非西洋人は「西洋」の「クリスマスという「特殊な」文化もまた優れている、と自動的に見なした」或いは「錯覚した」したということだけど、「西洋」の基督教において多分クリスマスに次いで重要な行事であろう復活祭は「無心論者を含む世界中の多くの人が祝い楽しむ行事」ではない。また、基督教と関係あるかどうかは微妙ではあるが、西洋(特に英語圏)の「文化」ではあるハロウィーン*2が日本に定着したのはごく最近のことだ。つまり、何故「クリスマス」だけが受け入れられたのかということを説明しなければならない。
先ず、クリスマスが一年のうちで日照時間が最も短い冬至の近くに行われるということに注目しなければならない。別の言い方をすれば、宇宙のエネルギーが衰弱した危機的な時期*3。そのような冬至の危機に対する宗教的・呪術的反応というのは、古代中国であれ古代日本であれ北米先住民社会であれ、少なくとも北半球では普遍的に見られる*4何しろ、冬至というのは北半球であれば普遍的に訪れるわけだからだ。クリスマスもそもそもは異教の冬至祭を基督教が取り込んだものである。日本には新嘗祭というのがある。これは元々農暦(太陰太陽暦)の11月に行われていた。西暦でいえば12月、冬至やクリスマスの近くになる*5。しかし、明治になって、「文明開化」の一環として太陽暦(グレゴリオ暦)が採用され、新嘗祭も太陽暦の11月に移され、国民の祝祭日ともなった。戦後は神道色を脱色した「勤労感謝の日」となっている*6。西暦の導入(文明開化)と国家神道によって失われたのは新嘗祭のコスモロジカルな意味であり、冬至という宇宙的危機に対する宗教的反応だったのだ*7。そのコスモロジカルな空白に入り込んだのがクリスマスだったわけだ。
ところで、日本的クリスマスにおいて前面に出てくるのは幼子耶蘇でも聖母マリアでもなく、プレゼントを運んでくるサンタ・クロースである。これについて、梅棹忠夫は、日本のサンタ・クロースというのは要するに(オオクニヌシと習合した)大黒天が姿を変えたものだと述べていた(『美意識と神さま』)。大黒天の祭りも太陰太陽暦の11月、冬至の近くに行われる*8。また、大黒天は全身男性器といってもいい神なので*9、クリスマス・イヴ=性夜というのは、少なくとも神道的には正しいことになる。

- 作者: 梅棹忠夫
- 出版社/メーカー: 中央公論社
- 発売日: 1985/01
- メディア: 文庫
- この商品を含むブログを見る

祝祭の構図―ブリューゲル・カルナヴァル・民衆文化 (1984年)
- 作者: 蔵持不三也
- 出版社/メーカー: ありな書房
- 発売日: 1984/03
- メディア: ?
- この商品を含むブログを見る
*1:See Reuters “Chinese university bans Christmas” http://www.theguardian.com/world/2014/dec/25/chinese-university-bans-christmas Mentioned in http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20141226/1419614765
*2:See also http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20091031/1256917615 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20091110/1257849610 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20101116/1289848131 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20141101/1414823222
*3:See eg. http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070101/1167668245 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090216/1234758392
*4:See 山口昌男『学問の春』第六講(Mentioned in http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20101228/1293511035
*5:See eg. http://lutera.org/archives/50958780.html
*6:See eg. http://jinja.jp/modules/chishiki/index.php?content_id=43 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8B%A4%E5%8A%B4%E6%84%9F%E8%AC%9D%E3%81%AE%E6%97%A5 そういえば、昔、指揮者の岩城宏之がTVで、「勤労感謝の日」なんていう抽象的な呼称は止めて、せめて〈お米に感謝する日〉とかにしろと発言していた。
*7:現在でも新嘗祭を12月に行う神社があるようだ。岡山県津山市の「福力荒神社」。See http://town.sanyo.oni.co.jp/kikaku/jishameguri/55_1.html
*8:See eg. http://www9.plala.or.jp/sinsi/07sinsi/fukuda/nezumi/nezumi.html
*9:See eg. http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E9%BB%92%E5%A4%A9