井波律子 - Living, Loving, Thinking, Again

岩波書店のツィート；

井波律子さんがお亡くなりになりました。『三国志演義』『中国名言集』『完訳論語』『書物の愉しみ』他、中国文学の当代きっての水先案内人として、活き活きと好奇心に溢れた文章で読者を魅了。三国志演義・水滸伝・世説新語・論語、全て個人全訳という偉業も。心よりお悔やみ申し上げます。
— 岩波書店 (@Iwanamishoten) 2020年5月18日

『京都新聞』の記事；

井波律子氏死去　「三国志」研究で知られる中国文学者、76歳
2020年5月18日 11:33

　「三国志」の研究で知られる中国文学者で国際日本文化研究センター（京都市西京区）の名誉教授、井波律子（いなみ・りつこ）氏*1が１３日午後８時２分、肺炎のため京都市内の病院で死去した。７６歳。富山県生まれ。葬儀・告別式は近親者で行った。喪主は夫で中国文学者の陵一（りょういち）氏。

　小学生の頃に京都に移り住み、京都大大学院文学研究科博士課程を修了。京大助手や金沢大教授などを経て、１９９５年に日文研教授に就任した。中国の歴史書や小説、詩など古典文学を幅広く研究し、「三国志演義」など翻訳も多く手掛けた。中国の古典小説を読み解いた「トリックスター群像」（筑摩書房）で２００７年に桑原武夫学芸賞を受賞した。著書に「三国志演義」（岩波新書）、「論語入門」（同）、「一陽来復」（岩波書店）など多数。
　女性作家の文学作品を対象にした「紫式部文学賞」（宇治市など主催）の選考委員を務め、１５年に京都市文化功労者。０７年には京都新聞の朝刊１面でコラム「井波律子の一日一言」を１年間連載し、「中国名言集　一日一言」（岩波書店）として刊行された。本紙コラム「天眼」の執筆を１４年から担っていた。
　今年３月に転倒で頭を強く打って入院していたが、肺炎を併発したという。
https://www.kyoto-np.co.jp/articles/-/250158

三国志演義 (岩波新書)

作者:律子, 井波
発売日: 1994/08/22
メディア: 新書

論語入門 (岩波新書)

作者:井波律子
発売日: 2012/05/23
メディア: 新書

1980年代、その頃はいまだ張愛玲も知らず、古典にせよ近代にせよ、中国文学というものに全然関心がなかった。何だか総体として黴臭くてださいというイメージしかなかったのだ。しかし、その頃、ポーラ文化研究所が出していた『IS』などで、ポップな文体で中国古典を語る女性の存在を知った。ひとりは中野美代子先生*2 、もうひとりが井波律子先生だった。中野先生が重厚なヘヴィ・メタルに近いとすれば、井波先生の方はもうちょっと軽みのあるウェスト・コーストのロックに近いという感じだった。その後、これらの先生方の文章を手掛かりにしつつ中国文学の世界に足を踏み入れ、親しむようになったのだった。
井波先生は、最初『世説新話』の研究*3から出発したからなのかどうかは知らないけれど、短めの人物評伝に特に優れていたように思えた。例えば、『酒池肉林』、『中国の隠者』、『破壊の女神』。