- 作者: 中野美代子
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2007/04
- メディア: 新書
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中野美代子『乾隆帝 その政治の図像学』(文春新書、2007)を暫く前に読了。
清朝の乾隆帝による、漢族、ウィグル、蒙古、チベット、西洋を、絵画、建築、詩文などを通じて象徴的・イメージ的に囲い込み・支配しようとする策略を中野美代子が解き明かす。乱暴に要約すると、こうなるだろう。この本で重視されるトポスは北京の紫禁城のほか、円明園と熱河(承徳)。また、本書では伊太利人の宮廷画家ジュゼッペ・カスティリオーネ(郎世寧)の担った役割が重視されている。それから、西洋における「ザナドゥー」(上都)幻想と「ジョホール」(熱河)幻想、それにカシミール幻想との関係についての記述(p.202ff.)が興味深かった。
I 皇胤と母胎の物語
II 仮装する皇帝
III 庭園と夷狄の物語
IV 楽園のなかの皇帝
あとがき
注
乾隆帝は「あの秦の始皇帝に対峙して中華帝国の巨大な円環を閉じた」皇帝(p.243)、「中華帝国の境域を史上最大にした」皇帝(ibid.)だが、乾隆帝のポートレイトとしては、次の一節を引用しておく;
ひとつ突っ込んでおくと、ネパールを「ラマ教国家」とするのは如何なものか(p.217)。ネパールは人口構成その他からいっても、ヒンドゥー教国家というべきでは?*1
そもそもかれは、満族皇帝の皇孫として生まれ、満語と漢語を学び自由に読み書きできる生まれながらのバイリンガルであった。日常生活では、朝服・常服ともに満族のものを着用し、周囲にも厳格にその原則を強いていたにもかかわらず、絵画に登場するときは漢族に仮装することが多かった。チベットのラマ僧に化けてマンダラの中央に座すことすらあった。漢族の学識と教養を身につけ、いわゆる漢詩をつくりつづけ、その数およそ五万首と、漢族詩人のレベルをはるかに超えた。
さらにはヨーロッパ人宮廷画家をこきつかい、絵を描かせ、西洋楼を建てさせ、噴水装置をつくらせた。(pp.233-234)
乾隆帝の父親である雍正帝の時代を描いたJonathan SpenceのTreason by the Book*2を読み始める。
Treason By The Book: Traitors, Conspirators and Guardians of an Emperor
- 作者: Jonathan Spence
- 出版社/メーカー: Penguin
- 発売日: 2006/01/05
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*1:ネパールという国のなりたちについては、石井溥「「ネワール的」な国から「ネパール的」国家へ――南アジアにおける多民族・多言語社会の国民形成――」in 飯島茂編『せめぎあう「民族」と国家 人類学的視座から』、pp.131-159(See http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080619/1213846922)を参照されたい。そこに曰く、「ネパールは、パルバテ・ヒンドゥーを多数派の支配層とし、マイティリー語やその他の言葉を話すインド系住民(全人口の約五分の一)、および山地部に居住するチベット・ビルマ語系などの諸言語を持つ人々(合計で、全人口の約六分の一)を含む多民族国家である」(p.135)。