龍を食べる

周作人*1「龍是甚麼」『大方』*21、pp.191-199


周作人の未発表エッセイ。止庵氏の解題によると、これは1950年代初頭に書かれ、1953年に香港の『大公報』に掲載される筈であったが、何故か掲載されなかったという。
「龍」についての伝承や記述を考証している。考証の対象となるのは爬虫類としての龍、「神物」としての龍という2つの側面である(p.191)。
爬虫類の龍に関して、周作人は『左伝』の昭公二十九年の記述を引く。晋の史官「蔡墨」が「魏献子」の問いに答えて語ったこと;


(前略)古時候有人懂得龍的飲食習慣、能夠飼養它、早在帝舜的時代、算起来是現今四千年前的事。後来到了夏代、孔甲得到了四条龍、雌雄各二、有劉累学得養龍的方法、由他照管、一条雌死了、劉累収蔵起来、做腌臘*3送給孔甲、大概很有点好吃、或者因為缺了一条的関係呢、他要叫劉累去找龍来、可是劉累没有法子找、所以就逃走了。(ibid.)
上古において、人は「龍」を食べており、また「龍」を飼育することもあった。しかし、飼育には特別な技術を要し、また野生の「龍」を捕まえるのは難しかった。周作人は「龍」を数えるのに「条」という言葉を使っている。「条」は蛇、道路、麺といった長い物を数える言葉。また、『易経』には「見龍在田」という文あり(ibid.)。それから、「龍蛇」或いは「蛇龍」という言葉(ibid.)。「深山大澤、実生龍蛇」( 『左伝』)。「駆蛇龍而放之菹」*4 (『孟子』)。近代の章太炎には「説龍」という文章があり、そこで彼は「龍」は「鼉」であり、民間では「猪婆龍」と称されており、すなわち「鰐魚」であると述べている(ibid.)。「龍」と鰐については、「龍與鰐魚」という節が設けられている(pp.196-197)。また、「龍」とは関係ないが、章太炎は「説鬼」という文章で、「鬼」という字は(『説文解字』がいうように)「死人」の象形ではなく「猴子」すなわちサルの象形だと述べているらしい(pp.191-192)。
易経〈上〉 (岩波文庫)

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易経〈下〉 (岩波文庫 青 201-2)

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ところで、竜は龍の略字ではなく、龍と意味も発音も同じだが全く別の字として昔から使われていた(Cf. 中野美代子『中国の妖怪』)。竜という字を見る度に、タツノオトシゴを思い出してしまう。周作人は、『説文解字』を見ても「龍」という字の起源はよくわからないとも述べている(p.191)。
中国の妖怪 (岩波新書)

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