井波律子『論語入門』

論語入門 (岩波新書)

論語入門 (岩波新書)

論語 (岩波文庫 青202-1)

論語 (岩波文庫 青202-1)

数日前に井波律子*1論語入門』を読了。



第一章 孔子の人となり
第二章 考えかたの原点
第三章 弟子たちのとの交わり
第四章 孔子の素顔


あとがき
主要参考文献
関連地図
孔子年表
人名索引
主要語句索引

本書は『論語』を一旦ばらして、テーマ別に再編集し、読下しと現代日本語訳とコメントを行っている。儒家思想の原像を知りたい人は、「君子」、「仁」、「孝」、「礼」、「道」、「文」、「鬼神」、「狂」という儒家の「キーワード」を解説した第2章を中心に読むべきだろう。
堅実でバランスの取れた解釈。ただ、井波先生の華麗な語り口やレトリックを知る人にとっては、本書はちょっと物足りないともいえるだろう。井波先生でも『論語』という権威を前にしてたじろいでしまったというよりは、著作のスタイルの問題だと思う。井波先生が得意とするスタイルというのは所謂列伝。例えば、『酒池肉林』にしても『破壊の女神』にしても『中国の隠者』にしても、短めの伝記が何本か並列されることによって、全体としての何某かの意味が生成される。本書も、例えば孔子のライヴァルたち、或いは弟子たちの列伝(銘々伝)であれば、もっと面白くなっていたかも知れない。
酒池肉林―中国の贅沢三昧 (講談社現代新書)

酒池肉林―中国の贅沢三昧 (講談社現代新書)

破壊の女神  中国史の女たち (知恵の森文庫)

破壊の女神 中国史の女たち (知恵の森文庫)

中国の隠者 (文春新書)

中国の隠者 (文春新書)

さて、「あとがき」に曰く、

こうして自己流で楽しんでいた私の『論語』体験は、今からちょうど四十年前の一九七二年、桑原武夫先生が『論語』(現在はちくま文庫)を執筆されたさい、吉川先生*2からお話があり、一年余りお手伝いしたことによって大きく転換した。孔子も桑原先生も本質的に明朗闊達、健やかな陽性の人であり、桑原先生が深い共感をもって描きだされる孔子像は、まことにいきいきとした存在感があり、私はいつも胸おどる高揚感を覚えた。ちなみに、このときはじめて、古注、新注、伊藤仁斎の『論語古義』、荻生徂徠の『論語徴』など、主要な注釈を入念に当たる術も知った。(pp.222-223)
論語 (ちくま文庫)

論語 (ちくま文庫)