40 years has passed

最近向田邦子*1の新刊がよく出るなと思っていたのだけど、没後40周年だった! 台湾の山地で彼女が墜ちる飛行機と運命を共にしたのは1981年8月22日だった。
NHKの報道*2


向田邦子さん 没後40年 雑誌や書籍の出版相次ぎ関心高まる
2021年8月13日 12時48分


脚本家で直木賞作家の向田邦子さんが、航空機事故で亡くなって今月22日でちょうど40年です。これを前に特集記事を掲載した雑誌やエッセーをまとめた書籍などの出版が相次ぎ、改めて向田さんの生み出した作品への関心が高まっています。

向田邦子さんは「寺内貫太郎一家」や「阿修羅のごとく」といった脚本のほか、数多くのエッセーを手がけ、1980年には雑誌に発表した3本の短編小説が直木賞を受賞しましたが、その翌年、航空機事故に遭い、51歳の若さで亡くなりました。

今月22日が没後40年に当たるため、関連する雑誌や書籍の出版が相次ぎ、東京 新宿区の書店には特設コーナーが設けられました。

日常の暮らしをユーモアを交えておしゃれに描いたエッセーの人気が高く、このうち、去年3月に刊行されたエッセー集は、ことし6月と先月のそれぞれ1か月の売り上げが、平均でこれまでの2倍ほどに増えたということです。

紀伊國屋書店新宿本店の吉野裕司副店長は「向田さんを直接知らない20代から40代の中にも没後40年の節目で初めて作品に触れ、ファンになる人が増えているのではないか」と話していました。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210813/k10013198881000.html

小出将則「爪、飴玉、遅筆──残された「症状」から、精神科医向田邦子を診断したら」https://news.yahoo.co.jp/articles/59057d6835a5692fa064a63f0c9c9e4a9c88c5e0


著者は精神科医向田邦子を「ADH」と「診断」する。


向田作品を読めば読むほど、わが身との「類似性」に身震いするのだ。キーワードは「ADH」。プロ野球指名打者(DH)とは何の関係もない。それは、私の仕事である心の医療に関わる用語だ。説明しよう。

ADHはADHD(Attention Deficit Hyperactivity Disorder)から障害(Disorder)を省いた造語で、ADHDの特徴である不注意や多動・衝動性があるものの、障害と呼ぶほどではないグレーゾーンの人たちを指す。ちなみに、ASDからDを取った「ちょっと自閉」がASだ。

名付け親は長年、発達障害治療に携わってきた信州大学医学部 子どものこころの発達医学教室の本田秀夫教授。本田先生は著書『発達障害 生きづらさを抱える少数派の「種族」たち』でこう記す。

発達障害の特性は多様で、ASDADHDなどの要素が複雑に絡み合っていることが多く、大事なのは診断名をひとつのベースとしながら、その人個人のことを詳しくみていくこと」。

さらに、発達の特性(ASやADH)は「ふつう」と地続きであり、本田先生自身にもそれがあると表明する。


向田邦子は爪切りが要らなかった。大人になるまでずっと、爪噛み癖が続いたからだ。「癇が強くて、飴玉をおしまいまでゆっくりなめることの出来ない性分」の彼女は、パーティの引き出物の包みを帰りのタクシーで破かずにはいられなかった。

片付けも苦手だった。洗面所の扉を開けると、棚からトイレットペーパーの山が崩れてきた。ADHDの特徴の「待てない、整理できない」を見事に体現している。

かくいう私も、直らない癖が深爪だ。血がにじむと分かっていても、いつもぎりぎりまで爪を切る。チョコボールが溶けきるまで舌の上で転がすこともないし、書類の山の中に身分証明書が隠れていたりする。

悪筆で判じ難い文字も私に似ている。最近はパソコン打ちだからあり得ないが、彼女の手書き原稿が製本される際、「手紙」が「牛乳」に、「狼狽」が「猿股」に化けたという。

邦子の遅筆ぶりは、常に関係者の気をもませたようだ。やはり原稿の遅い私と違って、ぎりぎりまで推敲し、最良の作品を提供しようというプロ魂だったのだろうが、それ以上に彼女のADH気質によるものだったことは間違いない。みずからエッセイでこう書き残している。

「子供の時分から、しなくてはならないことを先に延ばす癖があった。学校に持ってゆく宿題を朝の食卓で、お櫃(ひつ)の上でべそを搔き搔き、父や母に助けられてやった覚えがあるが、その辺の事情は今もすこしも変っていない」(雑誌名不明1981年)

ADHDの特徴である衝動性については、編集者の政田一喜がこう証言している。

「原稿は遅くて、書いていたかと思うと、突然、台所へ駆け込んで、お握りやちょっとしたオツマミを手早く作り出してしまう」。「せっかちで、おっちょこちょいで、早とちり……言い換えれば、好奇心の塊……東名高速道路が開通したときなど、いきなり『京都まで行こう』と言って、車で出かけた」(『向田邦子をめぐる17の物語』)

こうした衝動性や「先延ばし傾向」はADHD診断の根拠のひとつだ。いつも遅刻する人を見たら、ADH傾向があると疑ってみることも必要だろう。

私も「悪筆」だし、子どもの頃は「爪噛み癖」があったし、大人にになってからも「血がにじむと分かっていても、いつもぎりぎりまで爪を切」っている。今も。よく爪を短く切っている男には彼女がいると言われるけれど、童貞時代から私の爪は短かった。また、「飴玉をおしまいまでゆっくりなめることの出来ない性分」で、「片付けも苦手」。