知らぬが仏?

新装版 父の詫び状 (文春文庫)

新装版 父の詫び状 (文春文庫)

向田邦子の「兎と亀」(in 『父の詫び状』*1に、彼女が白露のリマからアマゾン川上流のイキトス*2へ飛行機で行く話が出ている。


イキトスはリマから飛行機でおよそ三時間ほどだったと思う。二つの飛行機会社からそれぞれ一日一便しか出ていないのだが、私達がリマに着く直前の、クリスマス・イヴに、ランサという会社の飛行機が墜落してしまった。機種は、日本でもお馴染のロッキードエレクトラ*3である。
墜ちた地点はアンデス山脈あたりということは判ったが、それ以上は皆目見当がつかない。乗客九十二名は絶望というニュースがペルーの新聞の一面に大きく報道されていた。
日本の場合だと国を挙げて捜索活動が開始され、テレビは遭難家族にマイクを突きつけご感想を求めたりするのだが、ペルーでは、そんなこともないらしく、第一、捜索機もお義理にチョイと飛んだきりで、お仕舞いなのである。物好きなアメリカ人が、パラシュートでジャングルへ降下して二重遭難したのがニュース種になる程度であった。
諦めがよいのかクールというのか日本人の感情ではどうも納得がゆかない。(p.211)
この文章を書いた数年後には、自分が台湾の山中で飛行機事故に遭遇する。勿論、そんなことは知る由もなかったのだろう。
ところで、このとき、向田邦子澤地久枝*4と一緒に旅行しているのだが、このことを澤地さんが書いているのかどうかはわからない。向田は澤地について、

飛行機が離陸すると、私はぼんやりと下の景色を眺めているだけだが、この人はメモを取り出し、出国税、空港税に始まって、ホテル代、チップなどの諸費用から、円換算までをキチンと記載する。ホテルの名前、メニュー、逢った人物、観光した名所旧跡も細大洩らさず書き込むのである。
更に、どこで買ったのか手品の如く絵葉書を取り出すと、用意のアドレス・ブックをひろげて、日本の先輩友人などに手紙をしたためる。チラリと横目で眺めたら、筆無精の私に代って、私の母親にまで書いて下さろうという方である。(p.213)
と書いている。