「安心感を求めて」?

福田フクスケ「なぜ男は風俗に行くのか。漫画家・鳥飼茜が考える」https://joshi-spa.jp/664379


鳥飼茜という漫画家については存じ上げないのだが、このインタヴューは興味深い。


――現在、『週刊SPA!』で連載中の「ロマンス暴風域」は、風俗嬢に“ガチ恋”してしまうサトミンという男性が主人公です。なぜ風俗を題材にした漫画を描こうと思ったんですか?

鳥飼:もともと、風俗で働く女の人たちの事情や気持ちをすごく知りたい時期があって、ずっと風俗嬢の漫画が描きたかったんですよ。

――どうしてそんなに風俗に興味が……?

鳥飼:私だったら、自分の好意や欲求と無関係の見ず知らずの“男性”の射精を自分の体で受け止めるというのは、つらいし苦しい。すごく怖い。でも、自分と同じ女の人の中には、お金のために割り切っている人もいれば、その仕事にやりがいを感じている人もいるでしょうし。それを完全に他人事とは思いたくなくて。

――それが今回、風俗嬢ではなく、風俗を利用する男性視点からの物語になったのはどうしてでしょう。

鳥飼:自分の周りの男友達や男性編集者に、「どういう気持ちで風俗に行くの?」「風俗嬢と私と、どう気持ちを切り替えて接しているの?」って聞いて回ったんですよ。みんな、苦笑いしながらもけっこう答えてくれて(笑)。そしたら、風俗に対する私の印象が少し変わっていったんですよね。

――それは、どんなふうに変わったんですか?

鳥飼:それまでは、「女は金で買える」という男の人の感覚に抵抗感があって、女の人の“性”がただただ売り物にされている場所だと思ってたんですけど。話を聞くうちに、どうやら私が思っている以上に男の人は女の人に対して、母親といるような安心感を求めていて、甘えたい・癒されたい・救われたいと思ってるんだなって。

――風俗嬢にも性欲だけでなく、そういうものを求めているってことですか?

鳥飼:ええ、女の人に嫌われるのをとにかく怖がっていて、決して自分を傷つけてこない保証がある女の人を欲しがっている。風俗は、そういう男の人にとっての避難所でもあるんだろうとすごく思いました。と同時に、男性の不自由さや生きづらさもだんだん見えてくるようになって……。

――具体的には、どんな生きづらさですか?

鳥飼:男は働いて一定の年収があって当たり前、女をリードできて当たり前、みたいな社会からの見えない圧力がたくさんあって、仕事を失ったり、今いる自分の立ち位置を失うことをすごく怖がってるでしょう? そこから弾かれることでみじめに感じている男性も多いのでは、って。

私は所謂「風俗」というのを利用した経験がないので、はあそうなんだ! と思う。その一方で、以前から、例えば、バーやスナックなどの酒場の女将がママさんと呼ばれていることが日本文化(社会)の重要な特徴のひとつだということはよく言われていたのだった。ママさんのおかげで、酒場は日本人男性にとって教会の懺悔室や精神分析のクリニックと機能的に等価なものになる云々。
そういえば、向田邦子の短篇「だらだら坂」(in 『思い出トランプ』)*1で、主人公の「庄治」が「トミ子」という冴えない娘を妾としてマンションに囲うのも、(上のインタヴューの言葉でいえば)「安心感」、「生きづらさ」からの逃避であった;

トミ子は気が利かない代り、先をくぐって気を廻すことをしないから、気の安まるところがあった。
この部屋では、いい格好をしなくて済んだし、体裁をつくることもいらなかった。
風呂からあがり、腰に湯上りタオルを巻いただけで畳にあぐらをかき、枝豆と冷奴でビールを飲めた。そのへんの惣菜屋で買ってきた薄い豚カツにソースをじゃぶじゃぶかけて食べ、夕刊を三面記事から先に読んでもかまわなかった。
ピーテーエーだのダンスパーテエと発音すると、馬鹿にした顔をする息子や娘もいなかった。庄治は電気通信学校卒の叩き上げである。
お茶だ料理だと稽古事に血道を上げ、そっちで知り合った友達から電話がかかると、気取った調子で長話している女房の声も聞かなくて済む。
(後略)(pp.31-32)
思い出トランプ (新潮文庫)

思い出トランプ (新潮文庫)

勿論、ここに潜む抑圧性や暴力性も無視できないのだけど*2

*1:See http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20170220/1487561367 Mentioned in http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20170306/1488772832

*2:「庄治」が最初「トミ子」をレイプしたことが示唆されている(p.31)。