
- 作者: 向田邦子
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2005/08/03
- メディア: 文庫
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向田邦子「お八つの時間」(in 『父の詫び状』*1、pp.216-226)
曰く、
多くは自分でも食べたことがあるもの、或いは想像がつくものだけど、いくら考えてもわからないものもあった。例えば、「かつぶし飴」、「チソパン」、「チャイナ・マーブル」、「木ノ葉パン」、「味噌パン」。「新高キャラメル」というのは台湾と関係があるのだろうか。
ビスケット。動物ビスケット。英字ビスケット。クリーム・サンド。カステラ。鈴カステラ。ミルク・キャラメル。新高キャラメル。グリコ。ドロップ。茶玉。梅干飴。きなこ飴。黒飴。かつぶし飴。変り玉(チャイナ・マーブル)。ゼリビンズ。金平糖。塩せんべい。砂糖せんべい。おこし。チソパン。木ノ葉パン。芋せんべい。氷砂糖。落雁。切り飴。味噌パン。玉子パン。棒チョコ。板チョコ。かりんとう――
きりがないからこのへんでやめておくが、昭和十年頃の中流家庭の子供のお八つは大体こんなところだった。(p.217)
向田は「私の一番古いお八つの記憶はボールである」と書く(p.216)。「ボール」とは実は「ボオロ」の記憶違いだったわけだが(p.217)。さて、私の息子は、まだ歯も生えていない頃にお茶の水の某喫茶店でビスケットをしゃぶったことを憶えているだろうか*2。
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うちの父は、正統派といえば聞こえはいいが、妙に杓子定規なところがあって、新聞は朝日、たばこは敷島、キャラメルは森永がひいきであった。
だが私は、森永キャラメルのキューピッド*3のついたデザインは好きだったが、明治のクリーム・キャラメルの匂いと。グリコのおまけに心をひかれた。ところが父はグリコに対して妙に敵意を持っていたようで、
「飴なら飴、玩具なら玩具を買え。飴も食べたい、玩具も欲しいというのはさもしい了見だ」
と機嫌が悪かった。四角四面の父は、グリコの押しつぶしたような自由な形も気に入らなかったのかも知れない。(p.218)