四角い猫(向田邦子)

新装版 父の詫び状 (文春文庫)

新装版 父の詫び状 (文春文庫)

向田邦子*1「父の詫び状」(in 『父の詫び状』、pp.9-20)


曰く、


これも七、八年前のことだが、猫が四角くなっている夢を見たことがあった。
いま飼っているコラット種の雄猫マミオがタイ国から来た直後、先住のシャム猫の雌と折り合いが悪く、馴れるまでペット用の四角い箱の中に入れておいたことがある。
その頃見たテレビのシーンに「四角い蛙」のはなしがあった。大道香具師が前日から蛙を四角い箱に押し込んで置く。四角くなった蛙を面白おかしい口上と共に売りつけるのである。買った人がうちへ帰って開ける頃にはもとの蛙にもどっているのだが、あとは野となれ山となれ。おかしくてその時は笑ったのだが、気持のどこかに笑い切れないものが残っていたのだろう。
夢の中でマミオが灰色の四角い猫になっているのである。何ということをしてしまったのかと私は猫を抱きしめ声を立てて泣いてしまった。自分の泣き声でびっくりして目を覚ましたのだが、目尻が濡れていた。すぐに起きて猫の箱をのぞいたら猫は丸くなって眠っていた。(pp.10-11)
「マミオ」の写真は(モノクロではあるが)


「文藝春秋」写真資料部「向田邦子と愛猫マミオ」http://hon.bunshun.jp/articles/-/522


を。
また、「コラット種」については、例えば、


Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B3%E3%83%A9%E3%83%83%E3%83%88
「コラット」http://www.nyanderful.biz/dictionary/korat.html


とか。
ところで、『父の詫び状』を読んでいて、向田邦子がトイレのことを「ご不浄」と書いていることに気づいた。彼女は昭和4年生まれ。私の父親と同じ。昭和生まれの人が「ご不浄」というのは聴いたことがなかったのだ。