ジョンは途方に暮れる？ - Living, Loving, Thinking, Again

よんばば*1「アファンタジアという症状の存在」https://hikikomoriobaba.hatenadiary.com/entry/2022/09/12/143608

「アファンタジア」ということで、ファンタジーを拒絶する人、小説でも映画でも、妖精とか魔法使いが出てくると、あり得ない！　と言って、お話を受け入れることができない人、仮令フィクションの世界と雖もこの世界の法則が貫徹していないと耐えられない人、かと思った。そうではなくて、「頭の中でものごとを視覚化することができない人」。「こうした人の存在そのものは1880年に発見されたものの、現在も研究はあまり進んでいないらしい」。まあ「想像せよ（Imagine）」と呼びかけても反応がなければ、ジョン・レノンだって戸惑ってしまうだろう。

IMAGINE

アーティスト:JOHN LENNON
Emi

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Wikipediaに「アファンタジア」という項目はあるのだけど、これは殆ど英語版の翻訳であるといえる*2。これも「アファンタジア」の知名度の低さの表れかも知れない。
さて、

この他、脳内で道を再構築することができないため、方向音痴であることが多い。これは私も非常に該当しているのだけれど、私の場合は真正（？）の方向音痴であって、アファンタジアではないと思う。

若い頃アルバイトしていた職場に１日だけいた或る男はもしかして「アファンタジア」の人だったかも知れない。そこでの仕事には、顧客の指定する場所に品物を届けるということが含まれていた。品物の配達に行って貰うと、歩いて10分程度のところにある場所だったが、30分経っても戻ってこない。また、顧客からはまだ届いていない！　というクレームが来る。そして、１時間ほど経った頃、彼は警察官に付き添われて戻ってきた。道に迷ってパニックになっていたところを警官に保護されたのだという。私の場合、路を憶えるという場合、南東に何百メートル進んで、さらに北東に転進して……という仕方で憶えているのではない。そうではなく、駅の方向に５分くらい歩くとスーパーがあり、スーパーを過ぎたら次の次の角を右に曲がって３分くらい歩くと寺があるので、寺の手前で左側の路に入って……というふうに、具体的なランドマークを手がかりにする。警察に保護された彼は。そういう具体的なランドマークを手がかりにしたナヴィゲーションというのが全然ぴんと来ないようなのだった。一応、喫茶店の角を左に曲がって少し行ったら１階が花屋のビルがあって、その８階というふうに教えたのだったのだけど。もしかして、コンパスを持たせて、南に50m、次は東に30mというふうに指示すれば路に迷わずに済んだのかもしれない。
「アファンタジア」の人というのは、具体的なイメージではなく寧ろ抽象的な概念を使って日常的に行動しているらしいのだ；

「頭の中で人物や風景を思い描くことができない「Aphantasia(アファンタジア)」とは？」https://gigazine.net/news/20150901-aphantasia-life-without-image/
「脳内でイメージを思い描くことができない「アファンタジア」とそうでない人の記憶力はどう違うのか？」https://gigazine.net/news/20210114-aphantasia-object-spatial-memory/
James Gallagher*3 “Aphantasia: A life without mental images” https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2021/10/06/085506

概念の媒体である言語は、一方ではイメージを排除した論理記号や数式に近い側面があるとともに、具体的なイメージを伝える媒体でもある*4。また、「アファンタジア」ということで思い出しのはローマン・ヤコブソン*5が２種類の失語症 *6を区別していること（『一般言語学』）。きわめて乱暴に言ってしまうと、文法の崩壊と語彙の崩壊*7。勿論、これは思いつきに過ぎず、現象の準位が全く違う。失語症が脳の特定の部位の損傷によって惹き起されるものであるのに対し、「アファンタジア」は（多分）先天的な個性ということになる。

一般言語学

作者:ロマーンヤーコブソン
みすず書房

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私はだいたい夢はカラーで見ていると思うが、アファンタジアの人は「まったく見ない」「ほとんど見ない」「見るけれどはっきりしていない」ということが多いらしい。眠れない時には羊を数えるといいと言うが、アファンタジアはその羊をイメージすることができないのだそうだ。

フォローしているblogで、略毎日前夜見た「夢」の報告をしている人がいるのだが、私の場合、「夢」は朝起きて珈琲を淹れたりしている間に忘れてしまうことが多い。「夢」を語るときに、人は既に目醒めており、夢を見ていない。「夢」の記憶をヴィジュアルなイメージとして想起・再生しながら、「夢」を語るということになる。「アファンタジア」の人は多分「夢」をヴィジュアルなイメージとして再生することに困難があるということになるのでは？
ところで、「アファンタジア」を発見したとされるフランシス・ゴルトン*8はチャールズ・ダーウィンの従弟で、「優生学」という言葉を発明した優生思想の元祖として悪名が高いが、他方心理学者としては、特に感覚やイメージに関する優れた先駆的研究をしているのだった。

*2:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%95%E3%82%A1%E3%83%B3%E3%82%BF%E3%82%B8%E3%82%A2 https://en.wikipedia.org/wiki/Aphantasia

*4:具体的なイメージが前面化するのは、私見によれば、小説やエッセイなどの散文においてである。

*7:See eg. 池田光穂「ローマン・ヤコブソンによる言語の二軸理論」https://navymule9.sakura.ne.jp/Biaxial_theory_Roman_Jakobson.html 奥野克己「言葉を失うヒトについて考え、無意識を抑圧から救い出す」https://blog.goo.ne.jp/katsumiokuno/e/6216d1c4329b9a087d0ace7d81932ebb