「骨折」は嫌です

『産経』の記事なり;


【大丈夫か日本語・上】大学なのに…中学生レベル6割!?




 「ついに、ここまできたか…」

 九州地方の私立短大に勤める講師はそう言って、しばし言葉を失った。“日本語が通じない現実”に直面したのは昨年秋のことだった。

 「ほかの人に比べると話し好きです」「思いやりがある方です」…このような簡単な文章を記した紙を学生に渡し、イエスかノーで答えてもらった。外向性や協調性などを診断する性格検査だ。

 「質問を理解したうえで答えないと正確な結果が出ないので、漢字に読み仮名をふり、分からない言葉は質問するように伝えた」と講師。

 間もなく20人ほどの学生のうち、数人が手を挙げた。

 「『怠惰』って何」

 「『まごまごする』ってどういう状態?」

 想定内の質問もあったが、就職を控えた女子学生が発した言葉には耳を疑った。「骨が折れる仕事は嫌です」という文章を指さし、「『骨折する仕事』が嫌なのは当たり前。違う意味があると思ったので…」と首を傾(かし)げたのだ。

 「全員の前で、それぞれの意味を伝えたが、多くの学生が説明に聞き入っていた。手を挙げたのは数人でも、実際分からない人はもっといたでしょう」と、この講師は推測する。

 “兆候”は数年前からあったという。講義中の指示や就職活動のアドバイスを、なぜか全く逆の意味に取り違えてしまう学生が目についていた。

 「履修登録の説明書が読み取れないので新年度のオリエンテーションが成り立たなくなっていた。基本的な語彙(ごい)力がないために、英語ならぬ日本語の理解力やリスニング力が落ちている」

 日々学生に接している講師の実感だ。


often訳しても…「しばしば」って?


 学生の日本語の間違いや語彙力低下に戸惑う大学関係者は少なくない。

 関東地方のある私立大学では数年前から、日本語表現法の講義内容が様変わりした。毎回、学生に漢字テストを課すようになったのだ。中学・高校レベルの問題ばかりだが、空欄が目立つ答案が多いうえに、「診談」(診断)、「業会」(業界)といった誤字も目立つ。

 「日本語表現法は、より良い表現を身につけるために『描写の際の視点の絞り方』などを教える講義。だが、最近は義務教育で身につけるべき表記や語彙、文法すら備わっていない学生が多いため、従来のやり方では授業が成り立たない」と、担当の准教授は話す。

 影響は他科目にも及ぶ。「英和辞典の訳語を説明するだけで時間が取られてしまう」。この大学で英語学を担当する教授は嘆く。

 英文解釈の講義で学生に「often」の意味を調べさせても、「しばしば」はもちろん、「頻繁に」といった訳語が理解できない。「『よく〜する』ではどうか、と聞いても、『よく』は『good』の意味としてしか認識していない学生すらいる」(教授)

 独立行政法人メディア教育開発センターの小野博教授(コミュニケーション科学)が平成16年、33大学・短大の学生約1万3000人の日本語基礎力を調べたところ、国立大生の6%、私立大生の20%、短大生の35%が「中学生レベル」と判定された。昨年度の同様の調査では、中学生レベルの学生が60%を占める私立大学も現れた。

 今年度、センターが開発した日本語基礎力を調べるプレースメントテストを利用する大学は57大学3万2000人(見込み)にのぼる。3年前の4倍を超す勢いだ。

 小野教授は「『(大学)全入時代』が到来し、外国人留学生と同等か、それ以下の日本語力しかない学生が出てきた。言葉の意味を学生に確認しながらでないと講義が進められない大学も少なくない。テスト利用校の急増ぶりに、大学側の危機感が表れている」と語った。



 こうした現象は大学生に限ったものではない。

 6月に第1回日本語検定を開く東京書籍が昨年、約60の企業に日本語をめぐる問題についてヒアリングをしたところ、深刻な悩みが次々と寄せられた。

 問題は「敬語が使えない」「違和感のある言葉遣い」といったレベルにとどまらない。

 オペレーターが日本語で書かれた取り扱い説明を理解できず、機械を故障させた▽社員が送った言葉足らずの電子メールが取引先を立腹させ、受注ができなくなった…。日本語力不足が実害を生むケースもあった。

 検定事業部の萩原民也(たみや)さんは言う。

 「大人から子供まで、想像以上に日本語のコミュニケーションがうまくいっておらず、『日本語で日本文化を伝えるのは難しくなっているかもしれない』とこぼす経営者すらいた。正しい使い方を再確認する時期に来ているのかもしれません」



 早期の英語教育の必要性を指摘する声が少なくない。だが、その是非を論ずる前に、母国語である日本語力の低下を深刻に受け止めた方がよいかもしれない。学校現場で、企業で「失われゆく日本語」を懸念する声が広がり始めている。その現状と対策の動きを報告する。

(海老沢類)
http://www.sankei.co.jp/kyouiku/gakko/070430/gkk070430000.htm

また、http://blog.livedoor.jp/dqnplus/archives/965846.htmlも参照のこと。
「最近は義務教育で身につけるべき表記や語彙、文法すら備わっていない学生が多い」ということなのだが、何故か文法能力に関する例示はない。ここに出てくるのはみなヴォキャブラリーの話である。それはともかくとして、この手の話は目新しいネタとはいえないと思う。つい数か月前にも「腹を割って話す」問題が話題になったことがあった*1。また、数年前にも日本人学生の日本語力が外国人留学生に劣っているといった調査が公表されたことがあると思う。
先ずこの記事自体に突っ込みを入れておくと、タイトルがそもそもミスリーディングであろう。60%というのは最大値であって、全国平均でも何でもない。小野博という方の調査で明らかになったのは、60%から6%(国立大学平均)までという日本語力の格差が存在しているということだ。とすれば、重要なのは60%の大学と6%の大学の諸条件の差異を比較することだろう。そうでない限り、近頃の若い連中は馬鹿だねということで終わってしまう。勿論、娯楽としての罵倒のそれなりの面白さは否定しないが。
さて、ここで問題になっているヴォキャブラリーだけれど、特殊な専門用語でもなく、難しくて複雑な漢字を使った言葉でもなく、けっこう庶民的にというか月並みに使われてきた言葉だということだろう。「まごまごする」にしても「骨が折れる仕事」にしても。また、客観的には、

考えたら大人だって「骨が折れる」のような表現を日常的に使うかというと。「骨が折れる仕事」って言わないでしょ。「きつい仕事」「つらい仕事」「難しい仕事」って言うでしょ、大人でも。「怠惰」も「まごまご」も私は会話じゃ使わないよ(使う人もいるんだろうけど日常会話で使う? 「怠けてる」とか「困ってる」「迷ってる」とかで代用しない? 厳密に言うと違うんだろうけどそれで話は通じちゃう)。使わないけど一種の「常識」としてなんとなく大人は知っている。でもそこで例に挙げられている若者たちは日常使わない言葉は知ってても使わないから必要ないし、それでも知っておくというのを「常識」と思ってないだけでは。
http://d.hatena.ne.jp/kmizusawa/20070501/p1
ということになるのだろう。ただ問題なのは、そういう言葉を使うこともある日本語の会話とか文学作品とかを伝統*2として肯定するかどうか、そこにコミットするかどうかなのだと思う。こういう言葉を使う習慣が消えると寂しいのか、そうではないのか。因みに、私は「怠惰」は話し言葉では使わないが、書き言葉では使う。「まごまご」は使う。また、それから派生した(?)まごつくも。
ところで、「『骨折する仕事』が嫌なのは当たり前」といった女子学生はなかなか素質があると思う。たんなる馬鹿と一緒にすべきではない。(時には)無知を装いつつ自明化した比喩やイディオムを解き・字義性へと一旦差し戻してみるのは、脱構築の過程のひとつであるとはいえる(ポール・ドゥ・マンでいえば、What’s difference?)。また、露西亜フォルマリズムやヤコブソンの所説を引くまでもなく、言語は詩的言語という様態において、記号−意味の自明的な連合は一旦宙吊りにされ、記号が記号として、音や形象として前面化する。その意味では、彼女はまさにその瞬間〈文学〉を経験しているともいえる。そう考えると、この先生の方こそ、学生時代にちゃんと文学理論を勉強したのかとも思えるのだ。
さて、

159 名前:名無しさん@七周年[] 投稿日:2007/04/30(月) 13:42:44 ID:5cWq63du0
ここは柔道王山下のスレでつか?

161 名前:名無しさん@七周年[sage] 投稿日:2007/04/30(月) 13:43:06 id:j8y0c3bv0
http://www.tanteifile.com/tamashii/scoop_2005/12/03_01/index.html
> 昭和天皇と、当時柔道の選手だった山下泰裕との園遊会でのやりとりは必見。

> 昭和天皇「骨が折れるだろうね」
> 大変だろうね、と山下を気遣った言葉をかけた昭和天皇だったが、それに対して山下は、

> 山下「はい。2年前に骨折したんですけど、今は体調も良くなりましてがんばっております」

>この昭和に起きた奇跡のコント『骨問答』の映像や写真もある。
http://blog.livedoor.jp/dqnplus/archives/965846.html

というのは、この記事が出たことの副産物。