二宮隆洋?

松岡正剛氏が死んで*1、二宮隆洋という人の言葉を全面的に引用して、松岡をdisるツィートを見かけた;


まあ、松岡正剛を追討するのは自由なので、やりたければどんどんやりなよとは思う。しかし、《権威》を持ち出して、自分に代わってその《権威》に罵倒してもらうという文字通りの権威主義的仕草ははっきり言って不快である。これって、自分が正剛以下の小物だということを自白しているということなのだろうか? 山形浩生氏は自分の言葉でdisっていたぜ。
さて、「二宮隆洋」という名を見て、誰? と思ってしまった。しかし、これは私の無教養のせいである、と気づいた。松岡正剛に対してこの人を出したら、マウンティングには確実に勝てるのでは?。


小林浩*2「今月末まで:二宮隆洋さん追悼フェア@ジュンク堂京都店」https://urag.exblog.jp/17832543/


2012年4月に他界した二宮隆洋の「追悼フェア」が2013年4月から淳久堂京都店*3で開催されたという記事。


内容:去年2012年4月15日に、享年60歳でお亡くなりになったフリー編集者二宮隆洋さんの追悼フェアです。二宮さんがこれまでに手掛けられた書籍(で現在まだ在庫があるもの)や、ご本人の蔵書にあった本などを集めて展開しています。二宮さんは平凡社で『西洋思想大事典』(叢書「ヒストリー・オヴ・アイデアズ」)や、「エラノス叢書」、「ヴァールブルク・コレクション」、『中世思想原典集成』などを手掛けた編集者であり、人文書業界で知らぬ者はいません。近年では中央公論新社の『哲学の歴史』の編集にも協力されました。最近、慶應義塾大学出版会より発売されたエヴァンズ『バロックの帝国』も、二宮さんの置き土産の一つで、今後も版元各社から「二宮本」が当分の間刊行され続けることでしょう。カラー冊子を作成された、二宮さんのご友人で編集者・詩人の中村鐡太郎さんから続刊予定の一端を伺ったことがありますが、ゾクゾクするようなラインナップでした。

余談ですが、私が今まで関わったことのある「編集者追悼フェア」は二つありました。ひとつは、哲学書房の社主である中野幹隆(1943‐2007)さん*4の追悼フェア(「中野幹隆という未来――編集者が拓いた時代の切鋒」@ジュンク堂書店新宿店、池袋本店、京都BAL店、2007年)。もうひとつは今回の二宮隆洋(1951‐2012)さんの追悼フェア(「親密なる秘義――編集者二宮隆洋の仕事 1977-2012」@ブックファースト青葉台店、2012年;「二宮隆洋さん追悼フェア――彼の手掛けた本と蔵書たち」@ジュンク堂書店京都店、2013年)です。

中野さんと二宮さんは私がもっとも尊敬し、目標としている編集者です。その中野さんと二宮さんにも、尊敬する編集者はいらっしゃいました。かつて中野さんご本人から伺った時、中野さんは村上一郎(1920‐1975)さん*5のお名前を挙げられました。村上さんは周知の通り評論家であり作家でいらっしゃいましたが、「日本評論」誌や個人誌「無名鬼」の編集を手掛けられたほか、吉本隆明さんや谷川雁さんと雑誌「試行」の同人を10号までおつとめになりました。評論家としての代表作に『日本のロゴス』(南北社、1963年)、『北一輝論』(三一書房、1970年)などがあり、国文社から『村上一郎著作集』(全12巻、1977-1982年)が刊行されています。三島由紀夫さんが自害された5年後に自宅で自刃されました。

一方、二宮さんが目指しておられたのは、平凡社の先輩編集者でもある林達夫(1896‐1984)さん*6でした。より正確に言うと、林達夫さんが構想された「精神史」が扱う領域の未訳書をすべて出版するというのが、二宮さんの平凡社入社当時の目標だったと聞きます。これは先輩編集者で現在は東アジア出版人会議理事でいらっしゃる龍澤武(1946‐)さんが二宮さんの「偲ぶ会」で明かしておられたエピソードです。林達夫さんは『世界大百科事典』の編集責任者でいらっしゃいました。『哲学事典』にも執筆と編集に携わっておられます。その該博な知識と秀でた語学力で、学者をも凌ぐ知的活動を貫かれた方です。著書は『林達夫著作集』(全6巻、平凡社、1971-1972年;別巻「書簡集」1987年)や、『林達夫セレクション』 (全3巻、平凡社ライブラリー、2000年)などにまとめられています。

さて、上掲のツィートで、 二宮隆洋の言葉とされているのは実は「二宮隆洋」のテクストではない。「編集素浪人」という筆名のamazon/co.jpの「カスタマーレビュー」なのだった。「編集素浪人」=「二宮隆洋」という確たる証拠はあるのだろうか?
ところで、松岡正剛も 二宮隆洋に言及していたのだった;


ロバート・エヴァンズ『魔術の帝国』」https://1000ya.isis.ne.jp/1590.html


曰く、


ロバート・エヴァンズの本書の原書は40年以上前のものだ。その噂はフランセス・イエイツ(417夜)からジカにも聞いていたが、邦訳は30年くらい前に平凡社の二宮隆洋さんがテオリア叢書の一冊として刊行した。
 二宮さんは平凡社の名物エディターだった。ぼくはけっこう二宮本を耽読してきた。最近になってひょんなことでお目にかかったが(平凡社の新刊の帯に推薦文を書く件で)、ゆっくりそういう話をする暇がなかった。
引用して気づいたのだけど、このテクストは2015年9月10日にアップロードされている。この頃は二宮の死から3年以上経っている。「最近になってひょんなことでお目にかかった」というけど、松岡の「最近」の幅って長すぎない? 或いは、「魔術」的な仕方で「お目にかかった」のだろうか。

なお、堀江宗正氏*7は二宮隆洋(のものだと主張される)罵倒(或いはそれを権威としたツィート)によって、却って松岡正剛に惹かれてしまったという;