寺沢知海「名古屋の河村市長、衆院選立候補問われ「アラーの神のおぼしめし」」https://www.asahi.com/articles/ASR9V362WR9TOIPE00C.html
9月25日の「定例記者会見」のときのこと。
アラビア語にInsha Allah という決まり文句があって*2、直訳すると「アッラーが望むならば」ということになり、英語で言えばOnly God knowsとかに対応することになるのか。河村が「インシャ・アッラー」をどう理解しているのかは知らないけれど、「アラーの神のおぼしめしです」というのはそういうことだろう。
この日の会見では、解散が取りざたされる次期衆院選への立候補について問われると「南無阿弥陀仏」と回答した。立候補すれば、市長職を任期途中で辞職することに触れて記者が「意味が分からない。市民への説明として不誠実なのでは」と再質問すると、「ご忠告いただきました。アラーの神のおぼしめしです」と答えた。
最初にこの話を聞いたとき、「アラーの神」という表現が問題だろうと思った。河村のことを揶揄する人も何故かこのことを問題視しない。「アラー」*3はそもそも「神」という意味なので、「アラーの神」というのは神の神になってしまうよ。ゴッドの神というのがおかしいというのは誰でも気づくだろう。さて、「アラーの神」という表現は、かつて大塚和夫先生*4も指摘していたけれど、文化論的或いは神学的な問題を孕んでいる。端的に言って、「アラーの神」という表現をすることによって、唯一神である「アラー」を瞬間的にアマテラスやオホクニヌシやディオニソスなどと並列されるone of themにしてしまうのだ。或いは、多神教化されるといってもいいだろう。河村たかし、或いは「アラーの神」という表現を使う日本人にその自覚があるかどうかは知らないけれど、「アラー」を〈八百万の神々〉のうちの1柱にしていることになる。
上掲の記事に戻ると、わけがわからないのは寧ろ「 南無阿弥陀仏」の方なのだった。普通の日本語において「南無阿弥陀仏」に「インシャ・アッラー」に対応するような用法はない。「南無阿弥陀仏」には阿弥陀如来に帰依しますという意味しかない。勿論、そこから英語のGod bless you! に対応する意味も派生してくるわけだけど。公明党(創価学会)に対する当てつけだという説も見たのだけど、どうなのだろうか。また、うちの宗旨だど、南無大師遍照金剛なんですけど、と発言する記者はいなかったのだろうか。
*1:See also http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090917/1253150984 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20100920/1284982810 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110214/1297620740 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110621/1308641906 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110918/1316350893 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20120220/1329737525 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20120223/1329955472 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20120501/1335857602 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20121124/1353736726 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20121205/1354634693 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20130408/1365352666 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20140104/1388800340 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2019/08/04/004033 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2019/08/10/032542 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2019/09/24/012159 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2020/07/04/113240 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2021/03/06/204749 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2021/03/08/101643 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2021/04/26/084036 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2021/05/01/110322 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2021/05/20/105011 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2021/08/05/151508 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2021/09/02/072336
*2:See eg. Houria「インシャアッラー(Insha Allah)の美学」https://houria.base.ec/blog/2020/05/09/004130 アルク「“インシャ・アッラー” 少し知れば少しわかる、イスラム文化圏の日本語学習者」https://nj.alc-nihongo.jp/entry/20220512-muslim 「なにげない共通点」http://www.hibun.tsukuba.ac.jp/page/page000468.html https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%82%B7%E3%83%A3%E3%83%BC%E3%82%A2%E3%83%83%E3%83%A9%E3%83%BC
*3:「アッラー」という表記の方がアラビア語の発音により忠実だとされる。
*4:See also https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20081012/1223807528 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20090507/1241673713 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20101020/1287547807 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20101226/1293366575 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20110108/1294455755 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20110203/1296712681 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20110522/1306007916 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20140613/1402586414 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20141201/1417404909 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20150114/1421212799 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2020/01/27/112039 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2023/01/14/133533