「キリスト教学」から離れて - Living, Loving, Thinking, Again

佐藤優 *1「深いレベル維持しつつ丁寧に紹介」『毎日新聞』2022年２月12日

近藤勝彦 *2『キリスト教教義学　上』の書評。
この書評の特徴として、対象書からの長めの引用が目立つことがある。

（前略）〈神学の学問性とはいかなるものであろうか。学問性を初めから人間理性の自律性による認識に限定し、「宗教的な真理」は虚偽に属すると判断するならば、反宗教的で無神論的な学問概念を自明とする前提に立つことになる。ただしその場合には、人生と世界の意味の問いも、それらの存在の根拠や起源の問いも、さらにそれらの終わりや目標への問いも、虚偽の問いとして葬り去らなければならないであろう。確かに理性の活動による諸科学が宗教的に中立であろうとすることは理解できないことではない。しかし宗教的な問いと宗教的な心理に取り組む宗教的理性が、信仰に関して中立的、つまり非宗教的、無信仰的であることを要求することはできないであろう。また非宗教的な理性が宗教的な真理に届くことができないことも明らかである。その意味では学問概念の反宗教性も無神論的規定も排除されなければならない〉。客観的で実証的な方法でキリスト教を扱っても、それは宗教学の一分野であるキリスト教学にはなっても、神学にはならない。神学書は、著者のバイアスがわかるような形で書かなくてはならないのだ。近藤氏はプロテスタントの立場からキリスト教の教義を解説する。

佐藤氏は、近藤氏の「人間の有限性」への視点が興味深いという；

人間の力もそして知も有限である。全能と全知は神の本質であって、人間はただわずかな力と知を保持するにすぎない。全能と全知を主張することは、まったくの無力と無知を標榜することと同様、真に人間的ではない。人間の個体としての空間的広がりも有限である。その有限性において人間は神に依存し、神への依存性を根拠にしてそれによって支持される仕方で他者や他の被造物に対し相互的で依存も含めて自由に関係する。／人間は他の被造物を自由に管理することにおいて、神への対応を表明する。（中略）*3人間が有限であるということは、自由のない宿命ではない。しかし有限な人間の自由は、有限な自由であり、神への依存性にある自由である。むしろ、神への信頼と依存において、人間は真に人間として真に自由である

*2:See also https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2022/03/21/021554

*3:佐藤によるもの。