手話とジェンダー

和田弘江「手話にも変化 「無理に『男』か『女』かを決めて表現されるのは大変苦痛」ジェンダー平等な表現へ」https://news.yahoo.co.jp/articles/f660d4573dc83933ec7c811b6ff48288bc3c22f1


ここで謂う「手話」とは日本手話*1のこと。


日曜日の朝。日本テレビでは、手話ニュースを放送しています。放送前の準備をしている時に、私は手話通訳者からこんな質問を受けました。

「原稿にある【鈴木さん】は男性ですか? 女性ですか?」

その理由を聞くと、手話では「男/女」で「~さん」にあたる敬称が変わるというのです。

通訳の方によると、フルネームで記載されているときは下の名前で、映像があるときはその見た目で、「男/女」を判断していて、どうしても分からない場合は、男性という意味もありますが「人」という意味で「man」にあたる男性の敬称を使用しているといいます。

しかし、その手話通訳者は「性の多様性が認められる中、名前や見た目だけで、性別を判断していいのだろうか」という葛藤もあると話しました。


手話では、職業を表す表現で「男/女」について悩ましい場面があるといいます。

例えば、「医師」は《脈をとる+男》、「先生」は《教べんに見立てた人さし指を振り下ろす+男》。女性の医師や教師が増えるにつれ、《脈をとる+女》、《教える+女》という表現が使用されるようになったといいますが、その人が、男性なのか、女性なのか確認する必要が出てきているといいます。

また、手話通訳者も悩んでいた名前の後ろに付ける敬称「~さん」。男性を指す「親指」や女性をあらわす「小指」で表現します。

ジェンダーにかかわらず使える「さん」に比べて、英語の「Mr.」や「Ms.」に近い表現ですが、性の多様性が広がる中、「男性と女性、どちらを使ったらいいか悩む場面がある」という声もあがり始めているそうです。

新しい手話表現を検討し確定させる機関である、日本手話研究所 *2事務局長 大杉豊さんは「日本の手話の語いと文法は、性別を表す“手形”を基本として構成されることが多く、これは、日本以外では韓国や台湾のみで使われている特徴」と話しています。

手話は、音声で伝える言葉と同じように、国や地域によって違います。日本で使われている手話は「男/女」の手話から派生する表現が多く、世界的にみても珍しいということです。

そして、大杉さんは「今やジェンダーの問題は国際的なものであり、日本の手話言語とその使用者コミュニティーが大きな課題を突きつけられている」と指摘しました。


大杉さんによりますと、ジェンダー問題に敏感な場面では、名前につける敬称については、従来の「親指=男性の敬称」「小指=女性の敬称」ではなく、手のひらをその人に向けて差し出す表現や、その人を指さす表現が使われることもあります。

また、今は名前を手話で表現した後に敬称をつけなくても、丁寧さが欠けることにならないということです。例えば「田中さん遅いですね」の場合には、「田中・遅い」で問題ありません。

こうしたことから、日本手話研究所では、現在は新たに性別に関係なく使うことができる敬称の手話を確定する考えはないということですが、「手話言語を使う聴覚障害者のコミュニティーの反応をもう少し見ていく」としています。

一方、聴覚障害のあるLGBTQ当事者団体「Deaf-LGBTQ-Center」*3代表 山本芙由美さんによりますと、「最近は、特に若い人の間では、ジェンダーニュートラルな人称代名詞を使う人が増えてきている」ということで、従来の「親指/小指」ではなく、人さし指を使うということです。


LGBTQ当事者団体により、「レズビアン」、「ゲイ」など新しい手話も生まれていて、「ニューハーフ」などこれまで差別的に使われることもあった手話を使わずに、新しい手話にアップデートしていこうと啓発活動が行われています。

しかし、まだ課題は多く残されているといいます。

山本さん
「LGBTQが社会に少しずつ認知されてきている中、一方で手話通訳者が養成講座で「男/女」をもととした手話表現を学習します。そのため、実際の手話通訳する場面で、特にLGBTQやジェンダーなどの講演会で内容に合わない手話表現を使ってしまったケースが多々あります」