近江と甲斐

磯田道史*1「見抜けなかった失敗から何を学ぶか」『毎日新聞』2020年4月25日


馬部隆弘『椿井文書』の書評。


本書は「日本最大級の偽文書」の物語である。日本最大級とは「その被害規模と根深さが」という意味。偽物にも比較的「無害な」ものと有害なものがある。例えば「東日流外三郡誌*2や「竹内文献*3は偽作と本書はいうが、これら近現代にひろまった「超古代史」モノは実害が少ない。歴史学者もちゃんと「作品だ」とわかっていて相手にせず、行政も教育も観光誘致に利用しないからである。しかし、江戸時代に創作された古文書(偽文書)は厄介である。

(前略)著者は、原本をみれば偽物と見破れたはずだ、という。最近の歴史研究者は活字やデジタル化史料ばかりみる。狭い専門にこだわり、中世・近世・近代と専門に関係なく、通時代的に歴史を語り、現物の真贋を即断できる人材が減っている。そのせいだと嘆く。万事、分野外にも通じた広い考えと、現場の生の情報の手触り感が大切である。
さて、磯部氏によれば、

江戸後期から幕末にかけて、歴史ファンが偽系図師としても活躍し、武将の偽書状も大量に作った。日本中で古文書調査をした経験では、滋賀と山梨で、偽文書を多くみた。
何故「滋賀と山梨」なのだろうか。「山梨」の場合は、武田氏と関係があるんじゃないかと推測はしたのだけど。