「サル」と「ゴリラ」から

大井浩一*1「なぜ「焚書坑儒」を語ったのか」『毎日新聞』2021年1月24日


晦日/元旦のラヂオ番組『村上RADIO 年越しスペシャル ~牛坂(うしざか)21~』*2におけるホストの村上春樹とゲストの山極寿一氏*3との会話について。


群れのリーダーについて、サルが「強さ」を示して力関係で統率するのに対し、ゴリラは「人格(?)」でまとめるという違いを山極さんが披露し、村上さんは「日本の政治家はゴリラの世界ではリーダーになれそうにない気がする」と語った。その後、おもむろに「学術会議を政府はなんであんなに煙たがるんですか」と核心の問題に切り込んだ。山極さんは新会員候補105人のうち6人の任命拒否*4を知った時「腰を抜かすほどびっくり」し、菅義偉首相に理由を聞いたが、「理由は言えない」との答えだったと経緯を説明。村上さんが「変わってますよね」と評したのを受けて、山極さんは述べた。
「問答無用だというわけです。これが民主主義国家かと思いましたよ。さっき言ったサルの政治になっている。(中略)*5もう少しゴリラを見習えば、もっと平和な政治になると言いたい」

村上「政府は、学術会議の提言なんて聞き流せばいいじゃないですか」
山極「そう。政治家と学者の役割は違う。学者はきちんと自分の専門領域にしたがって提言を出す。政治家はそれを聞いて、政治に生かすか生かさないかは彼らの判断次第なんです」
村上「古来、多くの為政者は気に入らない者をいじめてますよね。スターリンヒトラー⋯⋯。秦の始皇帝焚書坑儒というのをやりました。書物を焼き、土に学者を埋めてしまう」
山極「あった(笑い)」
村上「作家もたぶん埋められちゃいますよね。でも、周りにイエスマンばかり置くと、政治って腐敗するんじゃないですか」
笑いや皮肉を込めながら、二人とも言いたいことをはっきり口にした。特に村上さんは「焚書坑儒」という表現で、今回の問題は明白な言論弾圧だいう見方を示し、反対意見に耳を傾けない政治は腐敗すると指摘した。