悪人正機!

不良少年とキリスト (新潮文庫)

不良少年とキリスト (新潮文庫)

坂口安吾*1「詐欺の性格」*2(in 『不良少年とキリスト』、pp.51-75)に曰く、


(前略)タバコを横流しするなら、人情的に公定価で売るよりも、ハッキリとヤミ値で売ってもらう方がいい。どっちも罪悪であるが、善人的に罪悪であるよりも、悪人的に罪悪である方がハッキリしており、清潔である。
法律は公価で流す方を軽く罰するであろうが、神前の座関に於ては軽重のある筈はなく、善人的であることによってわが罪をも悟らぬというその蒙昧は、これも亦、さらに一つの罪であるから、私はハッキリ悪人的に犯罪する方がいいと考える。蒙昧は罪悪である。善人的蒙昧は罪が深い。罪は常に自覚せられなければならぬ。(p.70)
これって、浄土教でいうところの「悪人正機」じゃないかと思ったら、その直ぐ後で、『歎異抄*3ぱくりのフレーズがしっかり挿入されていた。「善人尚もて往生を遂ぐ、即ち危く素懐をとげる、いわんや悪人をや」(ibid.)!
歎異抄 (講談社学術文庫)

歎異抄 (講談社学術文庫)

  • 作者:梅原 猛
  • 発売日: 2000/09/08
  • メディア: 文庫
坂口安吾、このテクストを〆て曰く、

自らの罪深き心を自覚することなくして、我々が中世人から脱することはできやしない。私も亦親鸞にならって言うことを辞せぬ。敗戦後の日本に於て、タイハイしているのは善人どもだ。パンパンガールよりも日本の役人の性格、善人の性格の方がタイハイしている。日本一国のモラルや秩序そのものがタイハイしている。
自らの罪人たるを自覚せずして、真実の思想も理想も有り得るものじゃない。(p.75)