- 作者: 金井美恵子
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金井美恵子先生が所謂「萌え系」のことを「コンビニで売っているデザートのフルーツの切れっぱし入りのカップ・ゼリーを半分に切ったようなドロンとした眼を持つ少女」と描写している(「フット!」in 『目白雑録2』、p.225)。
さて、ナボコフの『ロリータ』は大久保康雄訳の時代から若島正訳の時代へ。勿論俺が読んだのは大久保康雄訳だけれど。それはともかくとして、若島正「二重露出――『ロリータ』新訳の眩暈」(『新潮』2006年2月号)という論攷への金井先生の突っ込み。例えば、若島氏は『ロリータ』の「彼女が涼しげにスカートを気球のようにふくらませて、またしぼませながら、ソファにひざを下ろしてはそばに座り、つやつやしや果実をもてあそんだとき、我が心臓はドラムのように高鳴った」という文から「映画『七年目の浮気』に出てくる、モンローが地下鉄の換気口の上に立ち、白いスカートがまさしく気球のようにふわっとふくらむ、あの有名な場面」を「想起」する(Ibid.から孫引き)。それに対して、金井美恵子先生曰く、
これは金井先生の勝ち! 若島氏をdisってはいても、「二重露出――『ロリータ』新訳の眩暈」については、
(前略)私としては、これは感覚的にどうも受け入れがたい見解である。マリリン・モンロー(グラマラスな女性的肉体の持つエロティシズムより、むしろ、そのあどけない無邪気さを坂口安吾は称揚したし、またそういったキャラクターをインテリの夫のアーサー・ミラーも信じ込んで彼女に演じさせた。自殺もしたくなるわな)とロリータは、いかにも結びつかない(名前から、リタ・ヘイワースへの連想は、もちろん誰もが持つだろうが)し、『七年目の浮気』のモンローのスカートは、気球のようにふくらむのではなく、傘がオチョコになるように吹き上げられる、と言うべきだろうし、あの有名な地下鉄のシーンで埃っぽい地下鉄の風に涼しさを感じるのは無邪気(で、しかも思ったほど馬鹿ではないということになっている)なマリリンだけなのであって、涼しげとはほど遠い、いかにもビリー・ワイルダー的下品な暑苦しいシーンと言えるだろう、と私は思うわけである。(pp.225-226)
と述べられている。ということで、若島正「二重露出――『ロリータ』新訳の眩暈」は是非とも読みたい。
訳者の想像と私の考えが違うことはどうでもいいことなのだし、どちらが正しいかなどということも問題ではないのだ。訳者のナボコフへの熱烈な傾倒ぶりを、ナボコフの『ロリータ』と並ぶ傑作、作品の注解者への愛にあふれた『青白い炎』を読むようにして楽しめばいいのである。(p.227)
- 作者: ウラジーミル・ナボコフ,大久保康雄
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も引用しておく。
(前略)ナボコフの『ロリータ』の語り手のハンバート・ハンバートは、ロリータも自分もベッドで横になって本を読むのが好きで、眼の負担を軽減すべく、ベッドの両端に百ワットの電球のスタンドを置くのだったが、ICインバーターのスタンドを二つ使うだけで相当の熱気で顔が熱くなるくらいだから、百ワットの電球二つとなると、これはかなりの熱さに違いない。それで思い出したのだが、小学生の頃、電気スタンドを点けて寝床で本を読みながら眠ってしまい、ふと眼が覚めたら、部屋に煙がたちこめていてフトンのうえに電気スタンドが倒れていて、フトンの綿が黒くなってブスブスといぶりながら煙を出しているのだった。階下でまだおきて本を読んでいた母に報告し、フトンの火はバケツの水で無事消され、フトンに直径十センチ程の黒い穴が出来たくらいで収まったのだったが、このちょっとした事件で私は母に電気スタンドを点けっぱなしで眠ったことに対してひどくお小言を喰らったり叱られたりしたわけではなく、むしろ、よく眼を覚ました、眼が覚めなかったら危険なことになっていた、と、ほめられ、自分の不注意が原因なのだから、子供心に、心底ほっとしたものだったが、それ以後、さすがに眠る前に電気スタンドを消す習慣は身に着いたわけで、それに寝床での読書も禁止されたわけではなかったから、それはそれで近視の原因にはなったけれど、いろいろ考えてみると、母はいいところのある人だった。(「スポーツ観戦日和」、pp.159-160)
金井先生による『ロリータ』への言及は『目白雑録』のp.220も見られたい*1。
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