「混血」

不可能性の時代 (岩波新書)

不可能性の時代 (岩波新書)

大澤真幸『不可能性の時代』*1から、珈琲を吹き出しそうになった一節。
ジョン・ダワー『敗北を抱きしめて』を参照して。東条英機*2の行状;


(前略)東条はMPが逮捕に来ると、ピストルで自殺を試みるも、死ねなかった。おまけに、「東条、これを持って」とピストルを握らされて写真を撮られる無様さであった。彼は、氏名不詳のGIからの輸血で一命を取り留める。そのため東条は、アメリカ医療チームの効率のよさと親切に感動して、見舞いの外務省高官に、「アメリカのデモクラシーの強さ」を褒めちぎった、と伝えられる。さらに、その後、東条は、ロバート・L・アイケルバーガー第八軍司令官に高価な刀剣を贈ったらしい。「生きて虜囚の辱めを受けず」と訓諭していたこの軍人が自死しなかったこと、しかも、未遂に終わった自殺も刀ではなくピストルによるものだったこと(おまけに刀は米人に贈ったこと)が、批判と嘲笑の的になった。フランス文学者の渡辺一夫*3は、東条「混血児となる」と日記に記した、という。東条の身体のなかを走る米人の血液が、敗戦という断絶が、いかに自然な連続性の中で生じているかを象徴していないだろうか。(pp.24-25)