ラオスにいったい何があるというんですか? 紀行文集 (文春文庫 む 5-15)
- 作者: 村上春樹
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2018/04/10
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村上春樹「シベリウスとカウリスマキを訪ねて」(in 『ラオスにいったい何があるというんですか?』*1、pp.134-157
少しメモ。
フィンランドというとあなたはまず何を思い出しますか? 僕の頭に浮かぶのは、浮かぶ順番にならべると
1 アキ・カウリスマキの映画
2 シベリウスの音楽
3 ムーミン*2
4 ノキアとマリメッコ*3
ということになる。アキ・カウリスマキの映画は全部残らず見たし、シベリウスの交響曲全集は五種類も持っている(個人的には五番をいちばん愛好している)。ムーミン・マグでときどきコーヒーも飲んでいる。ノキアの携帯はかれこれ五年くらい使っていた。というと、僕はかなりのフィンランド贔屓ということになるかもしれない。とくにこれまでそんなこと意識したことはなかったが、考えてみれば、そう言われてもやむを得ないところがある。(p.137)
それよりも驚いたのは、「追記」;
実をいうと、フィンランド語が一般的に使用されるようになったのは比較的近年のことだ。19世紀まではスウェーデン語がフィンランドの公用語として使われていた。フィンランド全体がスウェーデンの文化的支配下にあったからだ。現在でもフィンランドはバイリンガル国家で、フィンランド語とスウェーデン語の両方が公用語として使用されているわけだが、その当時はフィンランド語はどちらかといえば田舎の、あまり教養のない人々の言語とみなされていた。しかしフィンランドがロシアの支配下に置かれるようになり、ナショナリズムが勃興するにつれ、フィンランド語はフィンランド人の共通言語として、民族的アイデンティティーのシンボルとして、次第に力を持つようになってきた。フィンランド語が他の西欧言語とはいくぶん異なった言語構造を持ち、日本語と似た要素を持っているというのはよく指摘されるところだ。
そういえば、僕が昔(1980年代の半ば)ジョン・アーヴィングとニューヨークで会って話したとき、「私の本は何冊もフィンランド語に翻訳されているんだ。あの500万しかじんこうのないちいさな国でだよ」と嬉しそうに語っていたことを懐かしく思い出す。もちろんたくさんの人口を持つ国で翻訳されるというのはありがたいことだけど(本がたくさん売れるから)、でも人口の少ない国の言語に訳されるというのも、作家にしてはそれなりに誇らしいものなのです。その国に対して個人的に、温かい親しみを抱くことができる。(pp.148-149)
そうだったんだ!
僕は『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』*4のフィンランドのシーンをすべて想像で書いてしまってから、このフィンランド取材に行きました。なんだか自分の足跡をひとつひとつたどるみたいに。そういう意味では興味深い旅でした。(p.157)
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*1:Mentioned in https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2019/01/14/111042
*2:Mentioned in https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20070612/1181612322 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20090130/1233314378 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20130912/1378948190 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20140630/1404104626 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20141125/1416937525 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20160219/1455811813 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20160802/1470146120 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20160807/1470594046 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20170217/1487298341 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20170303/1488516129 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20171223/1513993688 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20180120/1516408940 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20180121/1516495069 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20180123/1516681805 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20180222/1519294375 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20180330/1522387564
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