仙一鳥

村上春樹「緑の苔と温泉のあるところ」(in『ラオスにいったい何があるというんですか?』、pp.25-65


アイスランドのパフィンを巡って。


アイスランドの名物はパフィンである。パフィンは知っていますか? 日本ではエトピリカとも呼ばれている。パフィンは本当に不思議な見かけの鳥で、北極近辺で活動する鳥のくせに、くちばしがまるで南国の花みたいにやたらカラフルで、足がオレンジ色で、ぜんぜん北方ぽくない。目つきはどことなく阪神(→楽天)の星野監督*1に似ている。春になると海の断崖に集団コロニーを作り、巣穴の中で子供たちを育て、秋冬は海の上を飛んで、魚を食べて暮らしている。野菜サラダとか焼肉なんかは食べない。魚だけを食べている。一年のうちおおよそ七ヶ月を、陸地にまったく足をつけることなく、海上で過ごしているということだ。『海の上のピアニスト』みたいですね。世界中にいろんな鳥がいるけれど、こいつくらい一目で視認できる鳥はいないだろう。一目見れば「あ、パフィンだ!」とわかる。なにしろ目立つ。おなかが真っ白で、背中が黒くて、このあたりはペンギンに似ているが、これは魚たちの目から姿を見えにくくし、背中で太陽熱を吸収するためである。いろいろと合理的に考えられているわけだ。くちばしがどうしてあそこまでカラフルなのか、それについての説明はなかったけれど。(pp.38-39)
野球選手に喩える村上春樹のレトリックとしては、「動物園のツウ」というエッセイの、

もう五年くらい前のことだから、まだいるかどうかはわからないのだけど*2、そのとき我々が東山動物園で見たマレーグマは、読売巨人軍阿部慎之助捕手に本当によく似ていた。本物の兄弟じゃないかと思うくらい――たぶん違うと思うけれど――顔がそっくり瓜二つだった。僕も吉本さんもヤクルト・スワローズのファンだし、決して読売巨人軍に好意を持っているわけではないのだが、その阿部慎之助似のマレーグマはとても愛嬌があって可愛かった。それで吉本さんはそのマレーグマに向かって「おい、しんのすけしんのすけ」とずっと呼びかけていた。そのほかいろいろなことを親しげに話しかけていた。なんだか昔の親しい友だちに久しぶりに出会ったみたいに。マレーグマは賢い動物だからむろんそんな無益なことには関わり合いにならず、自分のなすべき作業をクールに続けていた。横にいた若いカップルは気味悪がってすぐ違うところに行ってしまった(気持ちはなんとなくわかる)。(pp.383-384)
という箇所を思い出した*2
村上春樹 雑文集 (新潮文庫)

村上春樹 雑文集 (新潮文庫)

「パフィン」に話を戻すと、東京の葛西臨海公園の水族館にはアイスランドのヘイマエイ島生まれのパフィンがいるのだという(p.45)。春樹曰く、「僕も一度、臨海公園水族館に行ったことがあるけど、パフィンのことはよく覚えていない」(p.46)。私も「よく覚えていない」。ペンギンに気を取られすぎたため?