鯖読み10歳

『読売新聞』の記事;


白血病」「作曲家」「年齢」すべてウソ、交際女性が見つけた診察券から発覚
1/25(火) 14:00配信


読売新聞オンライン

 愛知県警中村署は24日、住居不定、無職の男(46)を詐欺容疑で逮捕した。

 発表によると、男は昨年6月7日、交際していた名古屋市の会社員女性(29)に、「白血病の治療に使用している未承認薬の治療費が払えない。すぐに返せるので金を貸してほしい」などとうそをつき、翌8日、中村区の路上で現金35万円をだまし取った疑い。容疑を認めている。

 男は同様の手口で、女性から計約2000万円をだまし取ったとみられ、県警で調べている。

 男は2020年12月、自作と偽った曲を投稿していた音楽関係のSNSで女性と知り合った。自らを「ピアニスト」「作曲家」などとかたり、昨年2月から交際に発展。女性方で同居していたが、今月上旬、女性が男の診察券を見つけた際、年齢を約10歳偽っていたことが判明。不審に思い、知人を介して同署に連絡したという。
https://news.yahoo.co.jp/articles/fb7e18bb3f647256970466ee0dcba7b7cfc9a31d

如何にして、この46歳の男は「白血病」患者、「ピアニスト」、「作曲家」を自ら演出しつつ演じていたのだろうか。また、被害者の「会社員女性(29)」は「白血病」を患った「ピアニスト」にして「作曲家」と「交際」しているという現実を維持していたのだろうか。「交際」中には何度もリアリティが綻びかけたことがあったに違いないけど、その都度如何にして疑いを封じてリアリティを繕っていたのだろうか。
多田文明という人は「自称であれば、いくらでも「作曲家」をかたれますし、どこからか誰かの曲をもってきて「自分の曲だ」といってしまえば、素人ではそれが偽りと見抜くのは極めて難しいでしょう」と言っている。そりゃあそうだろうけど、「ピアニスト」はどうだろうか。ミュージシャンが今度ライヴやるから見に来ない? とか誘うのはありふれたことだけど、「ピアニスト」なのに何故コンサートにも誘ってくれないの? と疑うことはなかったのだろうか。また、ピアニストの自宅にはピアノ、それもアップライト・ピアノじゃなくてグランド・ピアノがあるということは、ドラマの『のだめカンタービレ*1を視た人は知っている。46歳の男は如何にして自宅を「ピアニスト」の家としてコーディネイトしたのだろうか。リアリティが破綻したきっかけは、「女性が男の診察券を見つけた際、年齢を約10歳偽っていたことが判明」したことだった。これを契機に、その都度その都度繕っていたリアリティの綻びが蘇ったということになる。
男が如何にして10歳も若い30代の男を装っていたのだろうかという疑問も勿論あるのだけど、この話を読んで、自分のことを思い出した。30代のうちは、大学の入学式とかがああると、新入生のふりをしてサークルなどの勧誘のチラシを貰えるだろうかということをやっていた。自分は実年齢よりもずっと若く見える筈だと思い込んでいた。さすがに30代後半になってくると、大学新入生と誤認してくれるということはなくなった。それでも、50近くになっても、同世代の男を見て、恥ずかし気もなく禿頭晒してんじゃねぇよ! とか思っていた。そうした自己認識が間違っていると気づいたのは50を過ぎてからだ。息子が生まれたのは私が50歳のときだけど、息子と一緒にいると、父親ではなくて祖父*2だと言われることが何度もあった。それはとてもショックなことだったけれど、他者は自分を年相応にみているんだということを悟った。何が言いたいのかというと、年齢を10も鯖読むのは難しいということだ。