漫画版の方はわからないけれど、ドラマ版の方では、ガーシュインがけっこう重視されている。ガーシュインはクラシックの故地ヨーロッパから海を隔てた米国の作曲家だし、所謂クラシックの正統的な系譜に属するというよりは、寧ろクラシック/ポップスという区別の境界線に位置している。また、20世紀の現代音楽と呼ばれる作曲家はほぼ完全に排除されている。それなのに、どうしてガーシュインだけが許容されているのか。
と、ここで唐突に『のだめカンタービレ』に話は移る。オレはこの漫画に声楽家がほとんど登場しないのを不思議に思い、最初のうちは「声楽家が妙技を披露しているシーンは絵では表現しづらいからだ」と思っていた。しかし舞台が日本からパリに移ってから、「それはちょっと違うのでは」と感じられてきた。パリが舞台なので見すごされやすいが、「のだめ」にはけっこうドイツ・オーストリア音楽至上主義的なところがある。そこに声楽家を登場させるとどうしてもイタリア・オペラを扱わざるを得なくなり、作品世界の統一感が保てなくなる、という理由も大きいのではないか。
クラシックに興味がないひとはベートーヴェンの交響曲もヴェルディのオペラも大差ないと思うかもしれないが、じつは「超えられない壁」がある。旧帝大出身のインテリ臭い評論家が、いかに自分はイタリア・オペラに関心が薄いかをさも自慢そうに書いている例は少なくない。旧制高校的な教養主義を自明のものとして受け止めた世代にとって、イタリア・オペラは「軽蔑」とは言いすぎだが、「軽視」の対象ではあったのだ。まあ、そうした「壁」があるのだと思ってほしい。
http://d.hatena.ne.jp/yskszk/20070824#p2
ところで、上にある「旧制高校的な教養主義を自明のものとして受け止めた世代」には丸山眞男も入るか。彼にとって、オペラといえば先ずワグナーであり、伊太利物では決してなかった筈。
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