「夢の反対物」

エウパリノス・魂と舞踏・樹についての対話 (岩波文庫)

エウパリノス・魂と舞踏・樹についての対話 (岩波文庫)

ポール・ヴァレリー「魂と舞踏」(清水徹訳)(in 『エウパリノス・魂と舞踏・樹についての対話』、pp.129-181)から。
「魂と舞踏」は「エウパリノス」*1にも登場していた「ソクラテス」と「パイドロス」と「エリュクシマコス」*2が「舞踏」について語り合うという趣向。
パイドロス」に応えて、「ソクラテス」曰く、


(前略)夢の反対物とは、パイドロスよ、何か他の夢でなくて何だろう?… 〈理性〉そのものがつくりだすような、警戒と緊張の夢だ!――そして〈理性〉は何を夢見るのだろう?――もしかりに〈理性〉が身をこわばらせ、立ったまま、武装した眼をきっと見すえ、まるで唇を支配するように口をきりりと結んで、そんなふうにして夢を見るとすれば、その〈理性〉の見る夢とはわたしたちがいま現に眼にしているものではないだろうか?――正確な力と計算しつくされた幻影とからなるこの世界こそが、それではないだろうか?――夢、夢だ、しかしすみずみまで均整がとれ、すべてが秩序そのもの、すべてが行為と脈絡そのものである夢!… どのような厳めしい〈法〉が、ここでみずから明るい容貌を帯びたと夢見ているとは、だれが知ろう? どのようにして現実と非現実と知的なものとが、学芸の女神たちの力に従って、溶けあい、結びつくことができるか、それを人間たちにはっきりと示そうと意図して、厳めしい〈法〉が一致協力しているという夢をみずから見ていると、だれが知っていよう?(pp.142-143)

*1:Mentioned in https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2019/01/15/105120 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2019/01/24/165415 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2019/02/03/085518

*2:「訳注」に曰く、「プラトンの対話篇『饗宴』に登場する医者。酩酊の害を説いたりするので、おそらく生真面目な人物」(p.224)。

饗宴 (岩波文庫)

饗宴 (岩波文庫)