吃りと「沈黙」

沢伸也*1「人気番組への抗議と炎上…テレビから消えた吃音芸人はいま何を思う」https://news.yahoo.co.jp/articles/eecf57c4f20b4905b560dfa0c98c3452a168624a


曰く、


22年7月6日、水曜日のダウンタウン。芸人のチャンス大城が後輩で吃音があるインタレスティングたけし*2(以下、インたけ)にどっきりをかける企画が放送された。

 チャンス大城に怒られ、慌てたインたけが言葉に詰まる。その様子を、スタジオで見ていた芸人らが笑い、「変なやつや」などの発言もあった。

 放送後、NPO法人「日本吃音協会」(東京都新宿区)*3が「吃音当事者へのいじめや精神的被害を助長する恐れがある」としてTBSに抗議。SNS上では、抗議への賛同のほか、「過剰反応ではないか」「吃音者は芸人になれないのか」と、抗議に対する批判も上がった。

 インたけはSNSで「またテレビ出たいなぁ!」とつぶやいただけで沈黙を続けた。


「怒っていないし、むしろテレビに出られてうれしかった」

 その後に沈黙を続けた理由は「吃音のことで議論したくなかった」と明かした。

 インたけは中学生のとき、ラジオ番組にお笑いネタを送る「はがき職人」だった。ネタが初めてラジオで採用されると、自分が認められ、居場所を見つけられたように思えた。

 高校を中退し、音楽が好きだったので、駅で弾き語りをした。言葉は詰まるが、歌はすらすら歌えた。

 バイトでは接客でうまく言葉が出ずミスばかり。同僚から「何言っているかわかんないんだよ」と罵倒されたこともあった。

 仕事を転々とし、スーパーで清掃のバイトをしているとき、上司から「話し方がおもしろいから、お笑いでもやってみたら」と冗談交じりで言われ、お笑いを志した。

 「滑舌悪い芸人」として大手芸能事務所にネタを見せに行くと、評価され、所属することに。ライブでも人気が出た。

 しかし、当初は滑舌の悪さという珍しさで笑ってくれていた客も慣れ、それだけでは笑わなくなった。人間関係などの悩みもあり、芸能事務所を辞めた。

 今は、清掃の仕事をし、週末にお笑いライブに出る。

「 言葉は詰まるが、歌はすらすら歌えた」。私も吃音者だけど、私の知る限り、「歌」が吃るということはない。「言葉は詰ま」って「歌」が吃っているように聞こえたとしても、それはたんに歌詞を忘れているだけなのだと思う。会話にメロディをつけて歌ってしまうことは、寧ろ吃音者にとって、吃りを回避するための戦術なのではないかと思うのだ。ちょっと昔に豊田真由子という政治家がメロディをつけながら秘書を罵倒したということが話題になった*4。その時。私自身も子どもを叱るときにメロディをつけながら叱るということが屡々あるなと思ったのだった。その時点では、吃音との関係は考えなかったのだけど、後になって、豊田さんも私も、吃ることを回避するためにメロディをつけているのではないかと考えるに至ったのだった。
また、「滑舌」と吃音は関係あるの? 吃音者じゃなくても、「滑舌」が悪くて噛んでしまうのは沢山いるよ。安倍晋三とか。

自ら吃音を持ち「吃音ドクター」と呼ばれる九州大学病院の菊池良和医師によると、吃音は、子どもが長い文章を話せるようになる2歳から4歳の間から起きることが多いとされる。なめらかに話そうとして言葉に詰まるためだという。

 日本の研究グループが、2千人の子どもについて、吃音が発生する割合を調査したところ、4歳までに一時的に10%が吃音になっていたことがわかっている。そして、男児の62%、女児の79%が3年で自然回復しているという研究や、小学生では吃音がある割合が1%になっているという疫学調査もあるという。

 米国やイギリスなどでは、吃音は発話の多様性の一つとして認知されているという。「国内でも、治すのではなく、吃音の人が吃音を持ったまま参加できるような社会が理想です」と菊池医師は言う。

 インたけはこう話す。

 「このしゃべり方は、そういう一つの個性として見てもらいたい」「僕は一切、このしゃべり方で後悔したとかそういうこともない」

「日本吃音協会」の言い分;

人気番組に抗議した吃音協会に聞く 笑われた過去、思い出した人も
5/6(土) 19:42配信


朝日新聞デジタル

 吃音(きつおん)のある芸人インタレスティングたけしさんをめぐる「炎上」のきっかけになったのが、日本吃音協会によるTBSへの抗議でした。SNSでは抗議に賛同する声がある一方、「吃音者はテレビに出られないのか」という反発もありました。藤本浩士理事長は「『吃音者を扱わないで』という趣旨ではない」といいます。では、なぜ抗議したのか。真意を聞きました。


■「どもるところを面白おかしく見せている」

 ――去年7月、「水曜日のダウンタウン」で吃音の芸人がドッキリにかけられる企画が放送されました。協会はなぜTBSに抗議したのでしょうか。

 (放送は)ツイッターでの議論を通して知り、協会の会員に番組の動画を見せてもらいました。

 抗議したのは、吃音の子を持つ家族からのメッセージがきっかけです。「自分の子どもが番組を見ていて、嫌な気持ちになった」「学校で友達に『水ダウに出ていたあいつみたいなしゃべり方をしている』と言われた」など、番組を見て傷ついた人たちの声が協会に届きました。

 ――番組の問題はどこにあると捉えましたか。

 (一定の人たちに)「どもるところを面白おかしく見せている」と感じさせる番組をつくった、という点です。

 具体的には、インタレスティングたけしさんがどもってしまうところで、スタジオでは「こいつ、おかしなやつやな」といった発言や、スタジオ全体で爆笑がありました。吃音を笑っていたのではないかもしれないですが、当事者からすると、やはり自分が笑われたり、変な目で見られたりした経験がフラッシュバックしてしまう。

 ――TBSからの回答は。

 「番組の制作段階でもっと考えていく」と、謝罪と回答をいただきました。こちらからは、「吃音者を扱わないでくれ」という抗議ではない、という話もしました。

 ――どのような改善を求めますか。

 協会は、吃音への認知や吃音者の地位向上を目指しているので、番組で(当事者を)どんどん使ってほしいと考えています。

 ただ、見せ方が重要です。「吃音があっても、こうやって頑張っている人がいるんだ」と、みんなの希望になるような方法。こちら側の意見だけでいうと、例えばそういった見せ方をした上で、お笑いの要素を入れてほしいと思います。



■開けるのも嫌になるようなメッセージが

 ――協会が抗議した後、SNSではさまざまな意見が出ました。賛同がある一方、「そもそも抗議すること自体が差別では」という意見もありました。

 「吃音者をいじるな」ではなく、「吃音者の扱い方を見直してほしい」という抗議でした。しかし正直なところ、「日本吃音協会が『吃音者を扱うな』と言っている」と思っている方が多いのではと思いました。

 ――抗議後の「騒動」について、どう思われましたか。

 驚きました。(抗議は)当たり前のことをしたつもりでした。

 「炎上」というかたちにはなったんですが、悲観的にはなりませんでした。むしろ、炎上したことで吃音について興味を持ってくれる方が増えて、よかったんじゃないかなと感じました。

 ――協会への意見は来ましたか。

 メールやツイッターのダイレクトメッセージを合わせると、100件以上です。賛同者も多かったのですが、「死ね」など、開けるのも嫌になるような内容のものもありました。

 ――8月にはホームページで、TBSへの抗議内容についての説明をしていますね。その中で、協会はインタレスティングたけしさんに「謝罪」しました。

 協会が抗議を出した趣旨を明確にしました。趣旨を知らないままの反対があると思ったので、(各自で)判断してもらう段階までは持っていきたかった。

 謝罪したのは、炎上という形でインたけさんを巻き込んでしまったからです。仕事を奪ってしまうかもしれない。そこを謝罪させていただきました。

 ――抗議することで、吃音のある芸人がテレビに出づらくなる恐れはないでしょうか。

 海外のテレビ番組に、吃音があるアメリカのお笑い芸人が出ていました。その方は自分の吃音を自分でお笑いに変えているんですね。例えば、風邪で病院に行き、受付で言葉が詰まってしまった時に、受付の人から「あなたは言葉の病気ですか」と言われる、といったネタです。

 周りの笑いに同調して笑いを作るというより、本人が自ら笑いを作り出しているというか……技術というか空気感というか。自分がこういう風に見せれば、こういう反応が起きるだろうっていうものがあると思うんですよ。ただ、(吃音をいかして自分の力で笑いを生み出す)技術を磨けっていうのも、おかしな話ですし。難しいですね。
https://news.yahoo.co.jp/articles/2fdbdbe730858601082a4ef8b5978e43a92cd493

吃音とお笑いとの関係ということで最も困難なことは、吃音者であるかどうかを問わず、これから吃るぞと意図的に吃ることはできないということだろう。フェイク(演技)として意図的に吃ることは殆ど不可能である。本人は吃りの真似をしているつもりかもしれないけれど、(特に吃音の当事者にとっては)リアリティが全くない。無意識的な伝染ならともかくとして、吃音者も非吃音者も意識的に吃音を模倣することは極度に難しい。
ところで、大江健三郎*5は吃っていたけれど、将来大江の伝記映画が作られた場合、非吃音者の役者が大江健三郎を演じるというのはかなり困難なのではないか。

*1:See also https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20160425/1461605260

*2:https://ameblo.jp/veryinteresting1/ https://twitter.com/interestingt https://www.instagram.com/takeshi_interesting/

*3:https://www.npo-scw.org/ https://twitter.com/KituonScw https://www.instagram.com/npo_scw/

*4:See https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20170812/1502547815

*5:See also http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20060127/1138377731 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20060305/1141541736 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20060913/1158115201 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20060913/1158115845 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20061007/1160211636 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070219/1171860573 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070524/1180035472 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070805/1186334685 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20071017/1192639890 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080228/1204212786 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080612/1213243483 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080724/1216900400 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20081025/1224880677 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20081101/1225513928 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20081212/1229106098 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090227/1235701965 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090507/1241664621 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090508/1241746028 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090510/1241928928 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20091112/1257995144 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20091214/1260769343 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20100413/1271127313 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20100528/1275052441 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20100810/1281438143 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20101101/1288543788 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20101220/1292861075 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20101220/1292861075 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110327/1301200948 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110427/1303918915 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110707/1310010518 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110813/1313253565 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110829/1314543718 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20120401/1333220131 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20120403/1333385004 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20120425/1335361390 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20120929/1348878965 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20131212/1386781451 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20140725/1406262846 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20150626/1435335715 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20151129/1448815193 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20151211/1449803224 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160302/1456851644 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160314/1457888629 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160321/1458578210 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160325/1458929101 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160416/1460821073 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20161227/1482810098 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20170208/1486559995 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180117/1516161397 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180601/1527821829 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20180611/1528686783 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20181108/1541648397 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2019/01/26/151512 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2019/03/08/155000 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2019/04/22/102037 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2019/10/21/005852 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2020/04/29/085824 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2020/12/23/110402 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2021/02/15/032754 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2021/05/12/123805 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2021/07/16/160441 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2022/05/15/193958 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2023/02/13/112117 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2023/03/14/104659 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2023/03/16/154441 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2023/04/06/115640 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2023/04/10/130020