「問題なのは大人」

武田砂鉄*1「懐かしい一冊 五味太郎著『大人問題』」『毎日新聞』2021年12月18日


曰く、


絵本作家・五味太郎*2が、最近の子どもは大丈夫だろうかと頭を悩ませている大人に向けて、そもそも大人のほうが問題ではないだろうか、と投げかける一冊。たとえば、教育について、「そもそも『わかった』人間が『わからない』人間に教えていくという今の教育の構造が、全部まちがっているだと思います」と書く。自由とは、友情とは、家族とは、と問いを浮上させた子どもを前に、大人は模範解答を押し付けてしまう。選定図書、指定図書、課題図書、それを五味は「辛気くさいもの」と言い切る。だって、「いつどこでどんな本に出会うかというスリリングさが本の命」だから。
ある文章の感想を五十字以内で述べなさいという問いかけに、「べつに。」と答えた子どもがいた。それを知り、「しみじみします。全く同感です」。算数の問題で、兄が徒歩で家を出発、しばらくして弟が自転車で出発、それぞれ駅に向かったが、弟が兄に追いつくのは駅の何メートル前になるか、と問う。それを読んだときに、「なんで弟を待ってやれないんだよ」とか「別々に駅に何しに行くんだろう」と思える人は「いい人です」、そして、「そのうち必要があれば、たぶん何とかその問題もこなす人々です」。大人になると、こういう考え方を失い、子どもから消そうとする。
人と違ったことをしたくない、みんながしていることをしたい、とにかく普通でいたい、と考える人が多すぎる。それを五味太郎は「平均地獄」と称している。地獄から抜け出そうともせずに、むしろ、子どもたちを地獄に招いている。それが、大人になるってことなのか。そんなの嫌だ、と思いながら繰り返し読む。問題なのは大人だ。