「経歴」から「状態」へ

承前*1

武田砂鉄*2学歴詐称だけじゃなかった、周囲を騙したショーンKの巧みさ」http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20160323-00001575-cakes-soci


そういえば、武田さんの文章を読むのもかなり久しぶりだったのだ。
ワン・センテンスでいえば、「彼がしたことは「経歴」詐称ではなく「状態」詐称である」。或いは、「自分が設定した架空の経歴に負けないように、新聞を読み、ビジネス書を読み、英語力を身につけ、トーク術を鍛練していたのだろう」。
曰く、


結婚したり付き合い始めたりしたカップルに馴れ初めを聞くと、3割くらいの確率で「けっこう前からその存在を知ってはいたんだけど、特に何の印象も持ってなかったんだよね」という回答が戻ってくる。頻繁に聞かされるあの長ったらしい説明が示す状態には名前が必要ではないか。ひとまず仮に、あの状態を「ショーンK」と名付けておこう。2人の間に「ショーンK」状態を脱する、きっかけとなる出来事が起きる。例えば、急性胃腸炎になった時に誰よりも先に「心配してるよ」とLINEをくれたとか、その場にいる大半がガリガリ君の梨味の再現力を褒めているのに自分と彼女だけが「そうでもないっしょ」と言ったとか、何がしかの出来事を経て、何の印象も持っていなかった「ショーンK」状態から脱していく。

自分にとってショーンKという人は、長いこと「ショーンK」状態のままだった人である。わざわざ名付けたくせに長ったらしい説明文に戻すと、「前々からその存在を知ってはいたけれど、特に何の印象も持っていなかった人」である。すこぶる豪快な経歴詐称がバレて全ての番組出演を自粛することになったが、案の定、殺人犯が住んでいたアパートの近隣住民が「実は怪しいと思っていた」と語る感覚で「そんな感じがした」という後出しジャンケンが方々で放たれている。その一方で「経歴詐称は良くないが、彼のコメント力は類い稀なものだった」という意見も出る。どちらも頷けない。なぜなら自分にとって、今の今までショーンKは「ショーンK」状態にいる人という把握でしかなく、「ショーンK」状態を脱する出来事が一切起きなかったからである。つまり、向き合ったことがない。多くの人がそうではなかったか。


今件を受けて、やっぱり日本人は、能力より肩書きに弱い経歴信仰を持っているんだ、と言われているが、「日本人は」だなんて引っくるめないでよ、と思う。彼の講演、例えば「日本の競争力再評価とグローバル戦略の実践:インフラ輸出、PFI事業の可能性」(大和証券グループ本社主催)などを真剣に聞き込んじゃった人は、あぁ経歴信仰社会の弊害よと愚痴りながらも自省すべきだろうが、日本人の多くはただただ経歴に弱いのではなく、「この人、どうやらなんかスゴいことしている」という曖昧な状態に弱いのである。で、その「どうやらなんかスゴいことしている感じ」を作り上げるアイテムとして最も効果的な要素が経歴なのである。逆に、経歴だけでは「どうやらなんかスゴいことしている感じ」は作れない。この順番は大事だ。経歴という要素にだまされたのではなく、彼が作り上げた曖昧な状態にだまされたのである。

「前々からその存在を知ってはいたんだけれど、特に何の印象も持っていなかった人」が「どうやらなんかスゴいことしている」を必死に作り上げてくると、格段の効果を放つ。世の中の「ショーンK」状態には段階があって、「前々からその存在を知ってはいたんだけれど、特に何の印象も持っていなかった人」が、いつの間にか「前々からその存在を知ってはいて、特に何の印象も持っていないんだけど、どうやら人気らしい人」となり、そのうちに「前々から注目していたし、突出する何かというよりも、その存在がとっても印象的な人」に至る。印象を微調整して状態を作り上げるのは他人ではなく自分だ。「ショーンK」状態のさじ加減は、その本人が管理するのである。

ところで、

(前略)ウェブサイトに虚偽のプロフィールを載せ続けていただけ、と思っている人も多いが、『週刊文春』の記事には、彼がかつて『月刊BOSS』に「1997年から98年にかけて(F1チームの)マクラーレンコンサルティングをさせていただいたことがあって、そのうちサーキット内のパドックにも入らせてもらえるようになり、カーレースの醍醐味を知ったのだ」と話していたとある。それに対し、マクラーレン側は「この25年間、お名前は聞いたことがありません」ときっぱり回答した。
知らなかった! F1のサーキットにも「パドック」ってあるのね。俺はずっと「パドック」があるのは競馬場だけだと思っていた。
さて、『スポーツ報知』の記事;

ホリエモンがショーンK氏に「古舘伊知郎なんかよりキャスター向き」
スポーツ報知 3月21日(月)20時14分配信


 実業家で元ライブドア社長の堀江貴文氏(43)が21日、学歴詐称疑惑で番組出演を自粛した「ショーンK」ことショーン・マクアードル川上氏(47)についてツイッターで持論を展開した。

 堀江氏は「ショーンKくらい無難な事を言ってる方がテレビ的には安心なんでしょ」とチクリ。「声とルックスは一流だけどぶっちゃけ傾聴に値する事は言ってないよ彼は笑。」と切り捨てた。

 さらに「そういう意味で古舘伊知郎なんかよりショーンKの方がキャスター向きというか。素人レベルだとよくわからないもっともらしい無難な事を話してくれる」と続け、「その証拠にショーンK擁護してる人達は彼が有能なコンサルタントだと思い込んでる笑。声とルックスは最高だけど言ってる事はぶっちゃけ中身は特にない」とまくし立てた。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160321-00000158-sph-ent

ところで、「有能なコンサルタントだと思い込んでる」人っているの?