新たな「不正」など

承前*1

「STAP劇場いよいよ終幕 小保方さん「謎と共に去りぬ」〈週刊朝日〉」http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20141224-00000006-sasahi-sctch


曰く、


 検証実験は、監視カメラと立会人の見張りの下で行われたが、小保方さんはかなり焦っていたようだ。

「11月になってもSTAP細胞ができず、イライラしていた。『前はできたのに』とか、『どうして、どこかおかしいところがあるのか』とか漏らすこともあったそうです」(理研関係者)

「まだいるの?」とすれ違いざまに皮肉を言う同僚もいたという。

 小保方さんは実験後、粛々とデータ整理をしていたが、親しい同僚に「もっと研究を続けたい」とグチっていたとか。今後は?

小保方晴子主観的には嘘をついていないことになる。彼女にとって、STAP細胞の存在は、突きつけられた実験結果(事実)にも拘わらず真理なのだった。
しかし、真理ならぬ事実は冷酷。
『ハフィントン・ポスト』の記事;

小保方晴子氏の論文、新たな不正認定 「STAP細胞は別の万能細胞」理研調査委
The Huffington Post
投稿日: 2014年12月25日 18時25分 JST


STAP細胞論文を巡る問題で、理化学研究所理研)の調査委員会は12月25日、小保方晴子元研究員らが発表した論文の主な結論は否定され、その証拠となった緑に光るマウスなどは、別の万能細胞が混入したか、混入で説明できることが科学的な証拠で明らかになったとする報告書をまとめた。NHKなどが報じた*2。 

すでに不正認定された画像以外に、新たに2件の図表類にも、小保方元研究員による不正があったと認定した*3という。

理研は、STAP細胞の論文にねつ造と改ざんの2つの不正があると認定した後、新たな疑義が指摘されたため調査委員会を設置し、小保方元研究員が保管していた細胞や実験のオリジナルデータなどを詳しく調べてきた。

新たに不正と認定された1つは、細胞の増殖率を比較するグラフで、人工多能性幹細胞(iPS細胞)の開発を発表した山中伸弥・京都大教授の論文(2006年)中のグラフと酷似していると指摘されている*4

調査委員会は、STAP論文の結果は「ES細胞の混入」によって説明できるとした。

論文に示された緑に光るマウスやテラトーマと呼ばれる細胞組織などは、すべてES細胞が混入したか、混入によって説明できることが科学的な証拠で明らかになったとしています。

そのうえで、これだけ多くのES細胞の混入があると過失ではなく故意である疑いが拭えないが、誰が混入したかは特定できないと判断したとしています。

(「STAP細胞は別の万能細胞」 理研調査委 NHKニュース*5より 2014/12/25 15:02)

理化学研究所は26日、午前10時から都内で会見し、詳しい調査結果について明らかにするという。
http://www.huffingtonpost.jp/2014/12/25/obokata-stap-_n_6379424.html

時計を12月19日に引き戻して、その時点の知見に基づき書かれた、『東洋経済』の小長洋子さん*6の「STAPは雲散霧消、小保方氏お咎めなし? !」*7を読んでみる。
先ず、小保方晴子の「理化学研究所を退職するに当たってのコメント」の自己中心性が批判される;

一方、会見中に配布された、渦中の人・小保方晴子氏の理化学研究所を退職するに当たってのコメントには、「予想を遙かに超えた制約」「魂の限界まで取組み」「このような結果にとどまってしまったことに大変困惑しています」と、相変わらず自らの大変さや苦痛を主張したもの。

 多くの研究者に無用な負担をかけ、気鋭の科学者の自殺という事態にまで発展したことについては「未熟さゆえに多くの皆様にご迷惑をおかけしてしまったことの責任を痛感」と述べるにとどまっている。コメントの内容については一言一句変えないように、と理研側に要求したという。どこまで自らの責任を感じているのか疑問も生じる。

STAP細胞実在問題について;

会見で、検証実験責任者の相澤慎一チームリーダー、直接実験を行った丹羽仁史副チームリーダーともに、「論文のプロトコルに沿って実験を行ったが、再現できなかった」という言い方をした。科学に疎い一般人には、何やら含みのある言い方のように聞こえるが、科学者が科学的に確信を持って言えるのはそこまでだということであり、「実はSTAPはある」といった含みはない。

「あるかどうかはわからないが、今回の検証実験では再現できなかった」というのがいちばん正確な表現だろう。「ない」ことを証明することは『悪魔の証明』と言われるように、ほとんど不可能に近い。すべての可能性を網羅したうえで否定しなければならないからだ。これに時間とコストをかけることは無駄な努力と言っていい。
12月25日の時点では、「 あるかどうかはわからないが、今回の検証実験では再現できなかった」からさらに一歩踏み込んだ、別様の説明の可能性が提示されたといえるだろう。
「検証実験」の意味;

今回の実験はSTAP論文の検証実験であり、論文通りにやればSTAPができるかどうかを検証することが目的。もう一歩踏み込んでSTAPが本当にあるかどうかを調べるまでの研究は行われていない。直接実験を行った丹羽氏も、「今後もこの研究を続けるつもりは現時点ではない」とした。STAP現象があるかないかの研究は、今後関心のある研究者が独自に取り組めばよい話で、理研としては科学的な必要性を踏み越えて行ったこの実験までで十分役割を果たしたと言える。
さて、さらに重要なのは、仮にSTAP細胞が実在したとしても、これだけ手間・暇・金をかけてやっとこさできましたということなら、実用技術としてはあまり意味がないよということだろう;

そもそもSTAPは、「オレンジジュース程度の薄い酸に浸すだけで多能性を獲得できる簡単な方法」というのが当初の売りだったはず。これほどの長期間取り組んで再現できないものであれば、もしあったとしても実用化するためにたいへんな苦労をしなければならないことは目に見えている。それだけの時間と費用と人材を注ぎ込むべき研究なのか、という疑問も生じる。
また、理研が小保方の「退職願」を「受理」してしまったことへの批判はその通りだと思う。


武田砂鉄*8STAP細胞はやっぱりなかった! 小保方晴子氏を踊らせたのは誰なのか」http://lite-ra.com/2014/12/post-720.html


小畑峰太郎『STAP細胞に群がった悪いヤツら』(新潮社)という本の紹介。記事のタイトルを見ると、ユダヤなのかコミンテルンなのかCIAなのか知らないけれど、凄い陰謀が存在していそうだという気にさせられる。でも、そういうのを期待した人は失望するだろう。要するに、このSTAP細胞騒動を小保方晴子の単独犯として片づけるのではなく、日本政府の科学技術政策やその中での理研関係者の組織的思惑といった文脈の中に位置づけなければいけないという、考えてみれば当たり前の主張、ということになる。