「夫」の復権

持田叙子*1「「妻よりも劣る」夫の評価突き崩す」『毎日新聞』2021年6月19日


『鉄幹晶子全集 別巻8 拾遺篇』の書評。「今までに晶子全集はあった」が、「鉄幹全集はなかった」。「日本初の夫婦全集」。


完結編の別巻8には両者の書誌、年譜が入る。年譜はそのまま近代の激動史である。鉄幹の最終学歴は小学校中退! あとは独学した。なみの人ではない。晶子は男を望んだ父に冷たくされた。源氏物語に救われた。彼らの詩歌社「明星」は、日露戦争布告と同時に源氏物語を読む会を起こした。晶子は「君死にたまふこと勿れ」の反戦詩を発表した。危険思想、と非難する大家のもとに鉄幹と親友の平出修が駆けつけ、抗議して晶子を守った。以後も戦争の世紀に、晶子と鉄幹は愛の物語・源氏を世に広めつづけた。
さて、与謝野晶子*2をアゲて鉄幹*3をサゲた人の代表として森鷗外の名前が挙げられている。それに反論したのが折口信夫
「夫婦全集」の編者である逸見久美さんによると、「鉄幹」というのは「梅の幹」という意味。