折口など

持田叙子「折口学を編み直し、未来へつなぐ」『毎日新聞』2020年1月26日


岡野弘彦*1編『精選 折口信夫』(全六巻)の書評。
このアンソロジーの「目玉」のひとつは「難しいことば全てにルビを振ったこと」であるという。


(前略)折口*2は列島の北より南までよく旅した。よく歩いた。ときに遭難の危険をおかし、古代の旅びとに心をかよわせた。土地の伝説をあつめ、古い小さな神社や聖域を調べた。そして古代日本人のあつく信じたのが遠く異郷から旅してやって来た神*3であることを看破した。
ゆえに文中に地名が多い。神の名も多い。今までウッと詰まり読み飛ばしてきた宗教語も、すらすら読める快感はすばらしい。「寿詞」は「よごと」、「変若水」は「をちみづ」、沖縄の「源河」は「ぢんか」。ほぼ無敵である。これで著作が朗読できる。
折口は演劇的な人で、大学の教室でも歌うように講義した。朗読劇をめざす小説『死者の書』も書いた。源氏物語の授業では、みずからを「おれ」と名のる豪胆な光源氏と化して口語訳した。日本の物語は長らく口で読まれてきたものと考えた。本来、彼の著作は詩歌もふくめ、声に出して楽しむものではないか。今回の懇切なルビで、折口学朗読の糸口がひらけた。

松原隆一郎*4「借り物の制度が招いた混迷」『毎日新聞』2020年1月26日


佐藤郁哉『大学改革の迷走』の書評。
松原氏の意見をメモ;


そもそも企業組織の一部門を効率化するにすぎない経営手法が、なぜ高等教育の改革に有効と考えるのか。評者には、法曹が増えれば訴訟も増えて弁護士の勤務先も増えるといった希望的観測の裏には、「商品を増産すれば売り先も増える」という「セイ法則」の、素人っぽい思い込みがあると思える。
佐藤氏のデビュー作は『暴走族のエスノグラフィー』。
暴走族のエスノグラフィー―モードの叛乱と文化の呪縛

暴走族のエスノグラフィー―モードの叛乱と文化の呪縛