- 作者:マルティン・ブーバー
- 発売日: 1979/01/16
- メディア: 文庫
西垣通*1「なつかしい一冊 我と汝・対話」『毎日新聞』2020年12月12日
マルティン・ブーバー*2『我と汝』について。
創文社から出ていたのは知らなかった。
広く流布しているのは岩波文庫版だが、愛読していたのは創文社刊行の野口啓祐訳のほうで、邦題は「孤独と愛」という。何と昭和の香りがする書名ではないか⋯⋯。今の若者はこんな野暮なタイトルの本は買わないだろう。けれど実は、孤独も愛も決して消えたわけではなく、現代社会のあちこちの片隅で、切れぎれにあえいでいる。
ブーバーからは離れるが、「孤独」については、lonelinessを拒絶しつつsolitudeを肯定しなければならないと考えている*3。
「我と汝」が書かれたのは一九二三年だが、著者はすでに百年前、現在のデジタル世界を予感していたように思える。人工知能も脳科学も、扱えるのは「それ」だけで、「なんじ」とは無縁な存在だ。だが両者は世界の説明原理と見なされ、人間はますます正札付き機械部品と化していく。
そんな状況のもとでも、われわれは孤独や愛を忘れ去ることはできない。なぜなら、「生きる」とはそういうことだからだ。
*1:See also https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20080606/1212728195 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20080614/1213459419
*2:See also https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20060411/1144765784 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20060413/1144899471
*3:この区別は勿論アレントの『全体主義の起源』による。https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20050630 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20061113/1163423052 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20061226/1167151875 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20070420/1177093181 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20081209/1228825652 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2019/05/08/234216も参照されたい。 The Origins of Totalitarianism (Harvest Book, Hb244)