蕩父の帰還?

上東麻子「DVカウンセラー信田さよ子さんに聞く生きるための知恵 上」『毎日新聞』2020年12月11日


信田さよ子さんへのインタヴュー記事。
夏以降、特に女性の自殺が増加しているというが。


そもそも自殺は、心の問題だけではありません。貧困や暴力といった要因が大きいのです。新型コロナウイルス感染拡大の影響による失業者は7万人とされていますが、女性が多い非正規雇用から職場を追われています。また、10代の女性の自殺は、8月は40人で前年同月比で約4倍という数字もあります。女性の自殺増加の背景として、女性が家族による暴力の被害者になっている可能性があります。父親から殴られる、兄から性的暴力を受けるといったケースです。10代の女の子は逃げ場がなく、家出するか家で我慢するしかありません。例えて言うなら、収容所で1日3時間の自由時間があったのが、暴力的な父がコロナ禍で在宅するようになった家庭では、そのわずかな安息さえ奪われた状態です。そうなると、絶望のあまり死ぬという選択肢が出てきます。

世の中では、「ステイホーム」で親子のふれあいが増えた、という温かいニュースがある一方で、そうでない家族がたくさんいます。児童相談所が対応した虐待の相談件数は5月は前年同月と比べて2%減りましたが、6月は前年同月と比べて10%増えました。DVの相談も増えています。コロナ禍による経営不振や職場環境の変化により挫折感・無力感を抱いた父親が、家族を自分の思い通りに支配することで一時的に自尊心や自信を取り戻すのは珍しくないでしょう。

(前略)コロナ禍によって新しい問題が生じたわけではありません。これまでも起きていた問題が一気に表面化するという、変化の「加速化」が生じているのではないでしょうか。多くの夫婦は、夫が遅い時間に帰宅して風呂に入って寝るというすれ違いでなんとか関係を維持してきました。しかしコロナ禍によって、狭い家に長時間一緒にいるようになると、夫の暴言や暴力がひどくなり、なんとかごまかしてやってきた女性が何らかの決断を迫られるというケースもあります。
ところで、所謂定年後というのはさらに長期の「ステイホーム」なのだった。