龍はアレントを読んでいた?

長野智子*1「女友達に泣かれて途方にくれた私に「答え」をくれたのは、一冊の本でした。」https://www.huffingtonpost.jp/entry/a-book_jp_5cd0eca6e4b0548b735ea8d7


村上龍*2のエッセイ『ダメな女』について。


新卒でフジテレビのアナウンサーになって、「オレたちひょうきん族」に出演して以来、私の人生は長い間そのイメージに引きずられてきました。

若い頃は、はじめて会った人がすでに「ひょうきん族」の印象を私に持っているので、自己紹介をする前から笑われたり、テレビの中のキャラを期待されるんですよね。ふつうに振舞っていても「意外に暗いんですね」と言われたり。

本当の自分を見せてがっかりされるほうが怖くて、期待に応えようとして疲れるうちに、自然に仕事以外の交友関係では、人と距離をおくようになっていたんです。

当時、近しい女性数人で飲んでいた時に、つい、「私って親友いないんだよね…」と漏らしたことがありました。

そうしたら、隣に座っていた子が「私は親友だと思ってたのに」って泣き出しちゃって、すごく驚いた。自分のデリカシーのなさに落胆して落ち込みました。

そんな時、いつものように本屋をさまよっていて「ジャケ買い」したのが村上龍さんの『ダメな女』です。

この本を読んだ時、大げさでなく救われた気がしました。「友達」と「仲間」の定義づけを村上さんなりにされている本なのですが、「loneliness(ひとりぼっちで寂しい)」と「solitude(孤独という自由)」の違いをこの本によってはじめて認識させられた。

自分が「ダメ」だと思っていたことって、実はそれほど「ダメ」じゃないんだと気づかされたんです。この本との出会いで自分の性分ときちんと向き合うことができたんですよね。

「女、40代、人間関係、悩み」といった検索ワードでは見つからなかったかもしれない答えが、本屋さんという空間でもたらされた経験でした。

『ダメな女』という本が存在することも知らなかった。それにしても、lonelinessとsolitudeの区別*3 ということで真っ先に想起される固有名詞はハンナ・アレントであり、村上龍アレントを読んでいたのだろうか? と思った。さて? ここでは、やはり『全体主義の起源』と『精神の生活』をマークしておく。
The Origins of Totalitarianism (Harvest Book, Hb244)

The Origins of Totalitarianism (Harvest Book, Hb244)

The Life of the Mind (Combined 2 Volumes in 1)

The Life of the Mind (Combined 2 Volumes in 1)

また、リアル書店礼賛;

私は週に一回は本屋に通うようにしています。身の回りのあらゆることを、スマホで調べるようになった時代、もちろん話題の本をネット検索して購入もしますが、あえて本屋で「さまよう」ことを大切にしています。

休日には夫とお気に入りの大型書店に行って、「2時間後にここに集合ね」と言って別れて、マイペースに本を漁ることもあります。

私が本屋に求めるもの。それは、あえて自分からは「検索しない」情報、平たく言ってしまえば、特に関心をもっていなかった情報と出会う機会をもつことです。

ネット全盛のこの時代、アグリゲーションで自分の関心あるものはいくらでもポップアップしてくるけど、興味のないものに触れる環境ってむしろ少なくなっているような気がします。

キャスターという仕事柄もありますが、「偶然の出会い」をつくることは、自分の中に既にあった感情の原石みたいなものを、膨らませたり発展させていく上でとても大事。番組の企画に直結したりします。

「始まり」としての「本」;

本にこだわるのは、私が「テレビの人間」だからかもしれません。テレビは「放送」という言葉の通り、情報を送りっぱなし。ニュースや流行りのタピオカ屋さん、オススメの行楽地など溢れるような情報を伝えて終わりです。

でも本は終わりじゃない。むしろ始まりみたいなところがある。

良い読書体験というのは、本から受け取ったものが自分の中で「探していた答え」に変化していくプロセスのようなものだと思うんです。

*1:See also https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20161115/1479228554 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20180125/1516854526

*2:Mentioned in http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20050630 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20060521/1148175252 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20061008/1160276835 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070120/1169274863 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070207/1170842753 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070904/1188883198 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080724/1216900400 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090111/1231603370 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090816/1250443444 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090827/1251405021 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090911/1252642373 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20091001/1254415874 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20091106/1257474523 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20100304/1267675626 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20100313/1268459583 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20101010/1286679169 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110104/1294114040 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20131011/1381504737 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20131103/1383409222 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20131112/1384222612 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20140802/1406940639 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160328/1459129343 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20161222/1482381220 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20170127/1485512464 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20171016/1508162794 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20180708/1531021077 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20180713/1531447553

*3:See eg. https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20050630 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20061113/1163423052 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20061226/1167151875 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20070420/1177093181 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20081209/1228825652